197.モエカは、死ぬことに納得して死んだと言っていいのか?俺は、モエカの死に至る過程に対して、何一つ、納得などしない。
「代わり映えしないものを見続けたい人はいないわよ?」
とメグたん、微笑んだ。
メグたんは、俺を見て、俺と会話して、微笑むこともあるのか。
メグたんに微笑みを向けられるとは思わなかった。
メグたんにとって、モエカの話題は心が躍るのか?
モエカを死に至らしめたことは、メグたんにとって、楽しい話題なのか?
「モエカの殺し方は、代わり映えしなかったということか?」
モエカは、同じ殺し方を続けてきたから、正義が勝たないデスゲームから退場させた、のか?
殺し方に変化がないという理由で、モエカは殺されたのか。
アスレチックのデスゲームを盛り上げるために、同じ殺し方しかしてこなかったモエカを殺す場面を用意した、とメグたんは話していないか?
「モエカは、いつまで経っても、バカの一つ覚えな殺し方しかできなかった。
モエカが殺す画は、風景にしていいくらいに盛り下がったわ。
モエカの殺し方では、見せ場にならないから。
モエカの殺しの二回目以降は、私といたから、投げ銭がとれたのよ。
モエカは、完全に寄生プレイだったわ。
モエカ自身の活躍を見たい層がいるか、というと。
需要がなかったわね。
モエカが人を殺しても、画面が洗練されないのよ。
ここは、正義が勝たないデスゲームの中。
ただ、目の前にいる誰かを殺せばいい、という場所ではないの。
参加者は、視聴者が釘付けになるような殺し方をみせつけないと。
視聴者は、何を楽しみしているのかを、参加者は常に考え、視聴者を飽きさせないようにしないと。
視聴者に飽きられたら、終わりよ。
視聴者が参加者に飽きたら、投げ銭がなくなる。
投げ銭を集められない参加者に、生きていく価値があると思うの?
次々と新しい参加者が入ってきて、投げ銭を集められない参加者は、どんどん淘汰されていく。
正義が勝たないデスゲームは、正常に運用されていると思わない?
私はね?
正義が勝たないデスゲームが、見る価値のないものとして、視聴者から見放されてしまわないようにする。
だから、新陳代謝にも気を配るわよ。」
とメグたん。
「新陳代謝とは、新しい参加者のことか。」
メグたんは、俺の確認を聞き流す。
「モエカ以外が、撲殺する画の方が、モエカが、誰かを殺す場面よりも、はるかにテンポが良い。
モエカは、努力家ではあったわよ?
残念ながら、才能に乏しかった。
努力では埋められない程に。」
とメグたん。
「人殺しの才能か?」
人殺しの才能に恵まれていたら、正義が勝たないデスゲームの外では生きにくいだろう。
と考えて、合点がいく。
メグたんは、生きにくさを感じていたのか。
人殺しを日常としない世界に。
「デスゲームで、他にどんな才能を必要とする?」
とメグたん。
「デスゲームでしか使う場所がない才能だが、ここは正義が勝たないデスゲームの中。
人殺しの才能を持ち合わせていた方が、生きやすいか。」
「努力を褒められるのは、努力していい時間だからよ?
正義が勝たないデスゲームを努力だけで乗り切ったつもりになられては、大損害だわ。
一生懸命努力しました、で稼げるのは初回だけ。
いつまでも、初心者でいてもらってはね?
本人の努力だけで成果を出せないなら、強制的に成果を出させるしかないわ。」
とメグたん。
「タケハヤプロジェクトの学生が生き延びてきたのは、自分達で考えるのを止めてメグたんの言う通りにしてきたからか。」
「デスゲーム向きの思考がないのに、自分で考えて行動して、どんな成果が得られる?」
とメグたん。
「モエカは、デスゲームで投げ銭を集められなかったのか。」
「一生懸命努力する参加者が好きな人は、一生懸命努力している参加者が、報われずに死んでいく姿を見たいのよ?」
とメグたん。
俺は、とっさに、言葉が出なかった。
アイドルのファンは、アイドルの成長過程を応援する。
最初から成功が約束されている芸能人ではなく、泥臭く努力して、人気集めしてスターダムへと駆け上っていく様をみたくて応援する。
応援しているアイドルが落ちぶれる様をみたい人は、ファンではなく、アンチ。
正義が勝たないデスゲームの視聴者は、アイドルのファンと同じではない。
ツカサと太客の間のような関係は、芸術家とパトロンの関係に近いかもしれない。
正義が勝たないデスゲームにおいては、どんな参加者でも、応援してもらえるとは限らない。
参加してすぐに、見せ場が作れずに、退場することもあり得る。
モエカは、メグたんの近くにいたから、生き残れた、ということか。
「新陳代謝を大切にしているメグたんは、俺がいたから、モエカを殺すことにしたのか?」
「モエカには、分かりやすい理由が必要。
モエカは、賢いからね。
モエカは、自分が死ぬことに納得できる理由があれば、死ねる性格だったわ。
不条理でも、モエカが納得できていればよかった。」
とメグたん。
ツカサは、正義が勝たないデスゲームから、参加者を脱出させて、生かしてきた、とツカサに背骨を折られた男が話していた。
メグたんは、ツカサとは逆の役回りか。
メグたんは、デスゲームの参加者から誰を殺すか、を、毎回、決めているのか。
「俺は、モエカの死に方も、死に至る過程にも、納得しない。」
「そう。なら、どうする?」
とメグたん。
メグたんは、嫌われていると知らなければ、見惚れるくらいの笑顔を向けてくる。
俺は、メグたんに試されているのだろうか。
メグたんは、俺が、デスゲームを盛り上げられるか、メグたんを楽しませるか、試しているのだろうか。
俺は、メグたんに試されているのだと予想はついていても。
黙って受け流すことは、したくなかった。
モエカは、死ななくてもよかったのではないか?
絶望し、恐怖と痛みと苦しみを感じながら、生きることを諦めて死を受け入れる必要が、モエカにあったか?
俺は、心の中から湧き上がった憤りに、蓋をしない。
俺は、俺がこれからすることに、メグたんのやる気をラキちゃん一極集中から、俺に分散させるため、という理由づけをした。
「俺は、メグたんの余裕を崩す。」
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