188.メグたんとラキちゃんを見つけた。木の陰に隠れる俺。
俺に腕を振りほどかれた北白川サナは、俺を追ってこなかった。
北白川サナに追いすがられては、面倒だったから、ちょうどいい。
佐竹ハヤトの思考は、正義が勝たないデスゲームに参加して、追体験している。
佐竹ハヤトが、俺を後任にあてたいという考えは、妥当だとも思う。
俺が佐竹ハヤトの後任を引き受ける気にならないのは、俺が佐竹ハヤトではないから。
友達に、あいつしかいないと、信頼されていることは素直に喜べる。
だが、佐竹ハヤト本人以外から、佐竹ハヤトがそう言っていたよ、と聞かされても。
正義が勝たないデスゲームと関わりたくないという俺の決意を揺るがすまでには至らない。
佐竹ハヤト本人が直接頼んできたら。
俺は、条件や俺のやりたいこと、譲れないことを佐竹ハヤトと話し合った上で、引き受けるかどうかを検討した。
引き受けることを前提で、話し合っていたと思う。
北白川サナは、佐竹ハヤトではない。
北白川サナが、佐竹ハヤトの褒め言葉を伝えてきたことに、喜びはしたが。
俺が後任を引き受けない最大の理由は、北白川サナ自身が俺を褒める言葉を発していないから。
北白川サナは、俺に佐竹ハヤトの後任を求める理由を差し出してこなかった。
北白川サナが、佐竹ハヤト云々ではなく、北白川サナ自身の考えを話していたら?
北白川サナの話に、耳を傾けるくらいはした。
俺に佐竹ハヤトがしてきたことと同じこと同じ精度で成し遂げるのを期待しているだけなら、俺は引き受けない。
俺は、佐竹ハヤトではない。
俺の能力は、俺自身で身につけてきたもの。
佐竹ハヤトが身につけてきた能力と同じではない。
俺は、佐竹ハヤトを必要とするやつのために、佐竹ハヤトになってやろうとは思わない。
俺は、俺を評価するやつとしか付き合わない。
佐竹ハヤトは、俺を評価していた。
俺も佐竹ハヤトを評価していた。
俺と佐竹ハヤトは、互いに認めあっていた。
追ってこない北白川サナのことは、頭の隅に追いやり、頭を切り替えるか。
俺は、北白川サナの元を離れて、メグたんとラキちゃんを探した。
俺自身が動き回ると、目で追うよりも、探すのに苦労するかと思ったが、進んでいった先に、二人はいた。
話し声が聞こえてくる。
「話を聞きたいと言っただけで、なぜ殺し合うことになった?」
と困惑するラキちゃん。
「デスゲームに参加しているくせに、まだ理解していないの?
話が聞きたい、と言って、話をしてくれるような善人しか見たことがないの?」
とメグたん。
ラキちゃんは、言い返さない。
刑事のラキちゃんが、話を聞きたいと言って、拒否する人は、少なかっただろう。
「ラキちゃんには、現実を知るいい機会ね。
ラキちゃんは、どういう死に方を希望する?」
とメグたん。
俺は、ラキちゃんとメグたんの会話がよく聞こえる方へ足を進めた。
人工の土は、足音を吸収して、俺の足音は響かない。
人工の木の幹は、人一人隠れるのに便利な太さ。
「私は、メグを殺すつもりで誘ってはいない。
話を聞きたいだけ。」
とラキちゃん。
「私に話す気はないから、聞きたいなら、聞き出さないと。」
とメグたんは、軽やかに笑う。
メグたんとラキちゃんは、掴み合っては、手を払い、足払いを仕掛けたりしている。
メグたんは、前進のみ。
ラキちゃんは、後ろに下がりながら、メグたんから距離をとっている。
メグたんもラキちゃんも刑事になる前に、体術を修めているはず。
ラキちゃんとメグたんの掴み合いは。
メグたんがおしてはいるものの、勝利への決定打までには至っていない。
手の内を知っている者同士は、やり辛いだろう。
俺が見始めてからずっと後退していたラキちゃんは、メグたんの繰り出す攻撃が、ラキちゃんがよく知っているものだと気づいた。
「その型は、どこで?」
とラキちゃん。
「ラキちゃんはどこで?」
とメグたん。
ラキちゃんは、笑顔の下に必死さが見え隠れしている。
メグたんは、カメラ写りの良さそうな微笑を浮かべていた。
「如月ハコさんとメグが知り合いだったことは分かっている。
メグ、如月ハコさんは、なぜ死んだの?」
ラキちゃんとメグたんは、掴み合いから、組み手を始めた。
「ハコが死んだ理由は、ハコに聞いてみたら?
ラキちゃんが。」
とメグたん。
「亡くなっている人に聞けるわけがない。」
とラキちゃん。
「死にかけたら聞けるかもね?
試してみたら?ラキちゃんが。」
とメグたん。
メグたんが優勢で、ラキちゃんが、押されているのは、ラキちゃんに、メグたんを傷つけまいとするブレーキがかかっているからか?
メグたんは、話せるスピードを維持しているラキちゃんに合わせながら、ジリジリと優勢になっていく。
刑事の身分で、潜入捜査のために、正義が勝たないデスゲームに参加したと自分のことを認識しているラキちゃん。
ラキちゃんは、積極的に誰かに危害を加えることへの嫌悪感や抵抗が薄れたわけではないのだろう。
守勢からの劣勢になっていくラキちゃん。
ラキちゃんとメグたんの戦いを見て、俺にできることは何もない、と分かった。
元刑事で、タケハヤプロジェクトの参加者メグたん。
現役刑事のラキちゃん。
戦うスポーツ全般をしてこなかった俺。
二人の間に俺が割って入れば、大怪我をすることが、簡単に予想できる。
メグたんが、ラキちゃんを瞬殺する気なら、ラキちゃんのペースをやや上回る程度で、ジリジリと追い詰めたりはしないだろう。
メグたんに瞬殺する気がないのが、ラキちゃんのチャンスではある。
チャンスを活かす方法が、思いつけば、すぐに動くのだが。
俺は、ラキちゃんが、負けるのを見ているしかないのか?
歯がゆい思いで、木の陰に隠れている俺。
メグたんは、うっすらとした笑顔で、明るくラキちゃんに話しかけた。
「あら、ラキちゃん、お客様が来たわ。」
とメグたん。
メグたんの表情と会わないトーンの声を聞いても、ラキちゃんは、メグたんから意識をそらさない。
「誰?誰かいるの?」
とラキちゃんは、叫んだ。
メグたんに気づかれていたか。
俺は、木の陰で息を殺す。
隠れているのがバレたからといて、どんな顔をして出ていけばいいのか。
「歓迎してあげる。隠れていないで、出てきたら?」
とメグたん。
「来たらダメ!今すぐ引き返して!」
とラキちゃん。
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