181.娯楽がなければ、作ればいい。ものがなくても、人が複数いる。人と人の間に巻き起こる嵐をもって、娯楽とする。
俺は、キョロキョロした。メグたんもラキちゃんも見当たらない。
胸のあたりが、ざわざわする。
「どこで?」
「見晴台のない方の崖になっている高台です。」
と北白川サナ。
高台の方を探しても、見つけられない。
高台の周りは、人工の雑木林のように人工の木で、視界が遮られる。
「いきなり殺し合いになるか?
見る限り、仲は悪くなさそうだったが?」
「さっきの二人組が、ラキに囁いたです。」
と北白川サナ。
「何を?」
「分からないです。
ラキは、メグと話がしたいと言って、二人で高台に移動して、今は殺し合い中です。」
と北白川サナ。
北白川サナは、この場を動く気はなさそうだ。
「私達は、近づかないです。
巻き込まれたら、私達が危ないです。」
と北白川サナ。
元刑事のラキちゃん。
人殺しの心得があり、人の心理に長けているメグたん。
「メグたんの圧勝。」
「結果は、分かっているです。」
俺は、ある可能性に気づいた。
「メグたんとラキちゃんは、正義が勝たないデスゲームに参加する前からの知り合いではなかったか?」
「どうして、そう考えるです?」
と俺に尋ねる北白川サナは、俺の考え方を確認しているだけのように見える。
「正義が勝たないデスゲームの参加者の中で、分かっているラキちゃんの繋がりは、三名。
新人歓迎会の参加者だった元刑事の野村レオ。
麻酔銃を撃ち込みに来て、野村レオに銃殺された、ラキちゃんの幼馴染で、ラキちゃんと同じドッジボールに参加していた、ふーくん。
ラキちゃんの先輩の元刑事如月ハコ。
三人とも、既に亡くなっている。
メグたんが、この三人の死に関わりがあるか。
全くの別件で、メグたんとラキちゃんと面識があったか。
どちらかだと俺は思う。
サバイバルゲームが開始する前のメグたんとラキちゃんは、反目し合っていなかった。
サバイバルゲーム中に、二人の関係は変化した。」
ドッジボールのときも、画面越しだが、ラキちゃんとメグたんの関係に亀裂が入っているようには、見えなかった。
ツカサは、サバイバルゲームが佳境に入ったと、俺に話していた。
サバイバルゲームは、終盤に差し掛かった。
大規模な殺戮現場は配信済み。
今回のデスゲームは、最初から勢いがある、スタートダッシュ。
コメントは、盛況。
後は、シメに、大きく目立つ花火を打ち上げるだけ。
配信の目玉になるような殺人で、盛り上がりは最高潮を迎えて、今日のデスゲーム配信は終了。
本日の正義が勝たないデスゲームのメニューは、こんなところか。
何も知らないフリをして、メグたんが、圧勝するのを待っているのが、生き延びるための最適解だとは分かっている。
北白川サナは、俺に待つことを求めている。
北白川サナは、俺を死なせないために、俺についている。
タケハヤプロジェクトの参加者ではなく、元学生だったに過ぎない北白川サナに、正義が勝たないデスゲーム内で負担を強いるのは良くない。
俺も頭では理解している。
だが。
俺の頭の中は、ラキちゃんの名前を聞いたときから、ドッジボールで見ていたラキちゃんの画像で埋め尽くされている。
同じ空間にラキちゃんがいる、と思うと、気がそぞろになる。
ラキちゃんの声や表情が、俺の頭の中で、連続再生されていく。
ラキちゃんと話がしたいという、俺自身の気持ちを、俺は無視しない。
俺は、北白川サナに断りを入れた。
「俺は、ラキちゃんと話がしたい。
ラキちゃんの近くに行くが、安全を期して、隠れてみている。」
「私も行くです。」
と北白川サナ。
俺は北白川サナと見に行く前に、ラキちゃんに秘密を話した女二人から話を聞いておくことにした。
俺は、俺の顔を見て遠ざかろうとする女二人を呼び止めた。
「ラキちゃんに話した秘密の中身を話せ。」
女二人は、火傷で顔の表情が分かりにくい。
「女の秘密を暴いて楽しい?」
と前にいた女。
「まだ暴いていないから、楽しいかどうか分からないが?」
「ああ言えばこう言う。」
と後ろの女。
「二人がラキちゃんに話した秘密は、ラキちゃんが、メグたんに向かっていく成果をあげた。
これから、俺は、二人の大成功の現場を見に行く。
動機が分からないまま見るなら、アクションシーンの見学をしているのと同じ。
動機を知ってから見ると、サスペンスに感情移入できて、盛り上がる。
俺は、アクション映画よりサスペンスを推す。」
「言うわね?」
と前の女。
「復讐劇にゾクゾクするタイプ?」
と後ろの女。
俺は、距離を詰めて、二人だけに聞こえるように言ってやる。
「娯楽が足りないからこそ、秘密を使って、楽しむのではないのか?」
女二人は、我が意を得たりと手を叩く。
正義が勝たないデスゲームの参加者のうち、女二人は、デスゲームに適応し、日々の楽しみを糧に生き延びている。
女二人の日々の楽しみは、デスゲームにおいて、実益を兼ねていた。
参加者同士が潰し合うと、女二人の生き延びてる確率が高くなる。
女二人の動きは、女二人の知恵によるもの。
誰を生かして、誰を死なせるかのコントロールを女二人が握ることは、デスゲーム運営の意図するところではなかった。
サバイバルゲームで、女二人が、手当てが必要な火傷を負っていることから、察するに。
女二人は、デスゲーム運営の意図にそわない人選で、死者を出したことを問題視されている。
サバイバルゲーム以後のデスゲームに、女二人は参加しないだろう。
秘密を聞いた俺と北白川サナは、ラキちゃんとメグたんの殺し合いの現場に向かった。
「佐竹ハヤトとモエカについて知っているなら、デスゲームを脱出してから、二人について話を聞きたい。
俺が、モエカについて知らなかったのは接点がなかったから仕方がない。
佐竹ハヤトが生きている間に、佐竹ハヤト自身に聞いて知っていれば。
俺と北白川サナは、別の場所で会っていたか?」
「正義が勝たないデスゲームの中に限定されなかったのは、確かです。」
と北白川サナ。
北白川サナは、俺と佐竹ハヤトの関係を知っている。
俺が、佐竹ハヤトの勧誘を実質的に断った件も知っている。
気まずい。
誰かと行動することで、気まずい、という感想になるのは、初めてだ。
「着いたです。」
と北白川サナ。
俺と北白川サナは、殺し合いに巻き込まれないように、距離を保ち、木に隠れた。
殺し合いの現場は。
ラキちゃんが追いかけ、メグたんが逃げていた。
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。