18.リンチが可能?ルールに則って行われる行為は、セーフ。ドッジボールに、内野が外野に反撃することを認めるルールはない。
ドッジボール本番が始まった。
デスゲームにドッジボールを選んだ理由は、まだ分からない。
内野に三人、外野に二人。外野は、敵味方入れ替わり済み。
開始と同時に、テニス経験者っぽい男が投げたボールはふーくんへ。
ふーくんは、逃げずに取ろうとして、当たった。
当たったボールは、床を転がっていくけど、ラキちゃんも、男リーダーも、ふーくんさえ、ボールを気にしない。
ふーくんは、外野に行く素振りを見せない。
ワンバウンドせずに当たったのに。
ドッジボールというからには、ボールを投げると思っていた。
ふーくんにボールが当たったのが、何かの開始の合図だったのか?
ボールも投げているけど、ボール以外も投げている。
ダーツ。
フリスビー。
どちらも投げるスポーツだけど、ドッジボールと混ぜたら、誰にどれが当たったか、分からなくなったりしないのか?
外野は、常時、誰かしら何かを投げている。
四人全員が、投げているタイミングもある。
内野は、投げていない。
内野が内野に投げるシーンは一度も映らない。
ふーくんは、外野からの一回が当たっても、アウトにならなかった。
複数回当たったら、アウトかと思いきや、複数回でもふーくんはアウトになっていない。
ルール無用?
それは、ドッジボールなのか?
女リーダーチームは、満遍なく当てられている。
一方で。
男リーダーチームは、ふーくん一人が狙われている。
ルール説明がなく始まったのは、参加者が全員経験者だからか?
ふーくんを狙っているのは、元男リーダーチームだったテニス経験者っぽい男と紅一点の両方。
紅一点は、もっぱらフリスビーを投げている。
紅一点が、フリスビーをふーくんに向かって投げると、フリスビーは投げた方向に飛んでいく。
紅一点は、フリスビーに慣れていると思う。
一投目から、力まず投げている。
テニス経験者っぽい男は、ボールとダーツ。
ボールを避けたところに、フリスビーとダーツが飛んでくるパターンを何回かこなしていた、ふーくんが、キレた。
「なんで、俺だけを狙うんだよ!
向こうみたいに、平等に狙えよ!
俺だけ狙うなんて誰の作戦なんだ!」
とふーくんは、外野に吠えた。
外野にいる紅一点は、話しているふーくんを無視して、フリスビーを投げている。
ラキちゃんは、紅一点がふーくんのことを好いていないと話していた。
画面越しに見ている俺にも伝わった。
紅一点は、男リーダーとふーくんが一緒のグループだから、今まで何も言わなかった。
紅一点の本音は、ふーくんにいてほしくないのか。
紅一点は、迷いなく、ふーくんだけを狙い続けている。
ドッジボールだと、外野は内野に攻撃できても、内野は外野に攻撃できない。
ルールに基づいているから、一方的に攻撃しても、責められることはない。
俺にも、『本番』が何を意味するのかが分かってきた。
ルールに則ってスポーツしているように見せているけれど、これから始まるのはリンチだ。
ルールに則って、という名目で、抵抗できない特定の川への一方的な攻撃が許される口実を作った。
ルールに従って、人が人をいたぶる時間。
集中攻撃を受け続けていたら、じわじわ体力を削られ、精神的にも追い込まれるだろう。
時間をかけて、ルールに則って、絶望の淵に叩き込む時間か。
ドッジボールというスポーツだから、リンチする側は、直接、人を刺したり殴ったりして、傷つけるわけじゃない。
スポーツの定義を応用し、距離をとって、飛び道具を使うリンチ。
攻撃する側の心理的な抵抗が減って、肉体的な負荷も少なくなる。
それでも。
致命傷を与えるのは難しくないか?
疲れて動けなくなったら、ひと思いに、グサッとやるのか?
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