175.『秘密を知りたくない?』俺は、前後を女に挟まれている。
新手の女が、俺の前に立ち塞がる。
その女も、顔と首が手形の形に焼けている。
横から足を出してきた女とお揃いか?
「来た来た。」
と新手の女。
新手の女の声にも聞き覚えがある。
どこで聞いた声か?
思い出そうと記憶を辿っていると。
後ろから追いかけてきた女が、俺に声をかけた。
「あの女の秘密、知りたくない?」
俺が膝を踏んだ女は、あの女と言って、北白川サナを指差す。
「知らなくてもいい。」
と俺は、即答した。
デスゲーム運営が送り込んだ北白川サナの秘密を知ったら、生きてデスゲームを終了できるとは思えない。
俺の前後の女は、どちらも顔が焼けているため、表情を読み取れない。
「じゃあ、誰の秘密を知りたい?
私達、色々知っているわよ?」
俺の前に立ち塞がる新手の女。
俺の前と後ろに挟むようにいる女二人は、誰かの秘密を俺に教えたくてたまらないらしいが、俺は全く知りたくない。
「正義が勝たないデスゲームの中にいて、誰かの秘密を知っていることが、何かの役に立ったか?」
正義が勝たないデスゲームに限らず。
秘密を知っていると、優遇されるわけではない。
秘密を漏らさないために、存在を消されることもある。
正義が勝たないデスゲームの外では、正義が勝たないデスゲームの中にいるより、優遇される機会は増える。
正義が勝たないデスゲームの中にいる限り、優遇される確率は、ゼロだから。
秘密を漏らす前に、デスゲームに参加させて死なせるだけ。
実際のやり方を見てきたばかりの俺が言えること。
秘密を握ることは、強みにならない。
握っている秘密が、正義が勝たないデスゲーム運営に関する内容。
もしくは、デスゲーム運営が寄与する人物に関する内容だった場合。
秘密を知っていると、デスゲーム運営やデスゲーム運営から送り込まれてきた人物に疑われると、即日便で死を届けられることになる。
俺の予想では、俺の前と後ろにいる女二人は、秘密を握っていることで、優位に立とうとして、失敗し、顔と首を焼かれる羽目になった。
「知っていたら、これから役に立つよ。」
「知らないと損するから聞いていけば?」
顔と首に火傷を負っている二人の女は、よほど俺に秘密を話したいらしい。
生きている参加者の話を聞くと、正義が勝たないデスゲームを脱出できなくなるのではないかという疑念が晴れない。
生きている参加者。
サバイバルゲームで屍になっていない参加者は、北白川サナ、ツカサ、メグたん、ラキちゃん、俺。
北白川サナが、視認できる状態で、北白川サナ、ツカサ、メグたんの秘密を聞いたら、北白川サナにとどめを刺されるだろう。
俺の前後の女二人は、誰かの秘密を話すまで退く気がなさそうだ。
俺を地獄に道連れにしようとしているのか?
怪我をさせない代わりに、楽しい秘密を聞かせると甘い言葉をかける。
とどめを北白川サナに刺させることを前提に。
火傷した女二人が実行するには、体に負担が少なく、仕留める確率が上がりそうな方法を採用している。
女二人、息がぴったり。
コンビでも組んでいたかのよう。
コンビ?
女二人に見覚えがある理由が分かった。
ドッジボールのデスゲームで見た女リーダーと、女リーダーチームのチームメンバーだ。
生きている参加者についての秘密を聞くのは、リスクしかない。
亡くなっている参加者ならどうか?
「ハコという名の女の参加者の秘密はないか?」
聞けるなら、今一番聞きたい情報だ。
「ハコ?この部屋にいた?」
と後ろの女。
「いない。フルネームは、如月ハコ。
正義が勝たないデスゲームに参加していたことがある。」
「どんな女?」
名前しか知らないことは、言わない方がいいか。
「過去に正義が勝たないデスゲームに参加し、一度脱出に成功したが、戻ってきて、オウカに殺されている。
この情報で、話すことがないなら、退け。
時間の無駄だ。」
「「ああ。あの女。」」
と前後の女が同時に言った。
「何?知り合い?」
と前の女。
「間接的に。」
「名前を指定して聞くからには、思い入れがあるんでしょ?」
と後ろの女。
「気にかけていたやつがいた。」
新人歓迎会に参加していた野村レオは、ハコさんとラキちゃんの名前を、フルネームですらすら言えた。
おそらく、刑事を辞めることになってからずっと、野村レオは、ハコさんとラキちゃんを気にかけていた。
二人を気にかけていた野村レオは、もうこの世にいない。
ハコさんが、他の参加者からどう認識されていたのか?
ハコさんは、他の参加者と何が違うのか?
ハコさんが、正義が勝たないデスゲームを脱出したとき、何が起きたのか?
ハコさんが、一度脱出した正義が勝たないデスゲームに戻ってきた理由は何か?
このあたりを知ることができたら、正義が勝たないデスゲームを脱出したい俺にはプラスになる。
「そいつのため?」
と前の女。
「いや、気にかけていたやつを知っている俺のため。」
「自分のため?」
と後ろの女。
「当然。」
気にかけていた野村レオには、正義が勝たないデスゲームを脱出した後、野村レオの供養するときに、手を合わせて伝える予定。
「いいよ。話してあげる。」
と前にいた女。
「あの女のことで、何も隠すことはないよ。」
と後ろにいた女。
「ない、ない。」
と前の女。
「死んでいるから。」
と後ろにいた女。
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