173.北白川サナに既視感を覚えた。誰に似てる?外見で判断すると、北白川サナは、俺と歳が近い。北白川サナが話したがっている?
こちらを見る北白川サナの姿に、何かがチラつく。
既視感。
誰かに似ている?
北白川サナに似た容姿の女など、俺の知り合いにはいない。
俺は、北白川サナを見ながら考えた。
俺の思い当たる人物で、誰かいるか?
北白川サナとの出会いは、正義が勝たないデスゲームの新人歓迎会。
それ以前は、ない。
新人歓迎会の後も、今日まで会っていない。
俺の記憶を振り返ってもヒットしない。
北白川サナについて振り返るか。
北白川サナは、デスゲーム運営の送り込んだ人物だが、メグたんやツカサとは異なり、タケハヤプロジェクトの参加者ではない。
新人歓迎会で北白川サナに会ったとき。
参加者の多さや、北白川サナの独特の距離感に気を取られていたことに加え、初めてのデスゲームに緊張していたこともあり、俺は、気づかなかった。
参加するデスゲームが三つ目になって、気づいたことがある。
北白川サナは、外見から推測する限り、俺と歳が近い。
俺と歳が近いということは、タケハヤプロジェクトの学生とも歳が近い。
タケハヤプロジェクトの学生の誰か、か?
俺は、はっとした。
そうか、モエカか。
俺をじっと見ながら一人で立つ北白川サナは、どことなく、モエカを彷彿とさせた。
警戒心が強く、考えがはっきりしていて、何かをすると決めたら、誰にも左右されないで、一人でやり通すだけの芯の強さが、モエカにはあった。
モエカと北白川サナの見た目に共通点があるとすれば、女であること、ぐらい。
モエカを彷彿とさせたのは、北白川サナの俺を見る目。
真正面から見なければ、長い前髪に隠れてしまう二つの目。
俺に助けを求めず、『最初で最後をあげる』と殺される覚悟を決めたときのモエカの目。
真正面から、北白川サナの前髪越しの目を見た俺は、北白川サナの言動に誤魔化されていたことに気づいた。
北白川サナの眼差しの奥には、恋慕や思慕よりも重い何かがある。
それだけ重い何かを抱えた眼差しを向けられたら、素知らぬ顔はしない方がいいか。
俺は、火にまかれている参加者を避け、かつ、火にまかれている参加者に火傷を負わされた参加者を避けながら、ジグザグに歩いて、北白川サナの方へ向かう。
俺に話したいことがあるものの、サバイバルゲームの中にいる北白川サナからは俺に近づかない、理由があるのか?
デスゲーム運営から、俺に関する指示が、北白川サナに出ている可能性は、ないか?
ツカサにデスゲーム運営から指示が出ていたなら、北白川サナにも指示が出ている可能性は、高い。
サバイバルゲームは、文字通りのサバイバルゲームの様相を呈している。
生き残りをかけた戦い。
もはや、デスゲーム運営に、参加者を生き残らせる気があるのか、疑問がもたげてくる。
火傷をした参加者は、冷やすこともできず、ただ火傷の痛みにうめくか騒ぐか。
武器がない以上、怪我一つない俺が、火傷をした参加者と単体で争って、不利になることはない。
だが、怪我一つしていない俺は、少数派。
サバイバルゲームの参加者の過半数は、火にまかれたまま亡くなった。
今生きているのは、無傷な俺を含めて、サバイバルゲーム開始時の4割強。
傷一つ負っていない俺は、火傷はしていても、生きている参加者の数と比べれば、多勢に無勢。
火傷をしている参加者にも、程度の差はある。
あと数時間も生き延びられないだろう参加者もいれば、軽傷そうな参加者もいる。
走り回る気になれば、走れそうな参加者の位置を視界に入れて、特徴を把握しておくか。
火傷が致命傷になっていない参加者は、死ぬまでの時間が長くなる。
サバイバルゲームのデスゲーム終了まで生き延びられたとしても。
医者にかかることもできなければ、火傷に効く薬を手に入れることもできない。
火傷を負ったことで、参加者のプラスに働くことは一つもない。
怪我をしたから、という理由で、リタイヤできない。
活動休止もできない。
正義が勝たないデスゲームに参加すると、衣食住の面倒を見てもらう代わりに、自分自身のメンテナンスは、自分で行うことになる。
誰も怪我の責任を負ってはくれない。
健康維持は自己責任。
それが、正義が勝たないデスゲームの参加者の大前提。
そのルールがデスゲーム参加者の共通認識として、根底にあるから。
火にまかれている参加者に追われていた参加者は、必死に逃げた。
火にまかれている参加者は、無事な参加者を追いかけて、火傷を負わせることを止めなかった。
怪我をすることは、生存率を下げる。
生き延びたいなら、まず第一に、怪我をしないこと。
俺の状況を再確認するか。
俺は、無傷。
彼我の差がある場合。
多数派になるか、少数派になるか、も、大事だが。
声が大きく口うるさい面子の数が、空気を作る局面も少なくない。
空気を作られた状況に苦虫を噛み潰した気分になったことはあっても、空気を作る側になって、いい気になった経験は、俺にない。
俺は、立ち止まらないように気をつけながら、北白川サナの元へ進む。
俺の足元に、横からすっと足の先が出てきた。
足の持ち主を見ると、地面に座っている女から、足が伸びている。
足で足止めか?
足にひっかけて、転ばそうとしたか?
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