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172.サバイバルゲームは、佳境だ、とツカサは笑う。ツカサは、男を殺した腕で、俺の背中を叩き、笑いかけてくる。北白川サナ?

見晴台の螺旋階段の下には、俺とツカサと、背骨を折られて息絶えた男。


ツカサは、男の背骨を折った腕で、俺の背中を叩いて笑いかけてくる。


俺は、大人しく背中を叩かれていた。


目の前で人を殺したばかりのツカサを刺激する気にはなれない。


人を殺す前後で、ツカサに変化はない。


殺し慣れているからか。

変わらない演出だからか。


ツカサの内心は、見えてこない。


俺の横にいるツカサからは、どんな感情も匂わない。


演技をしているのか。

素の状態なのか。


俺は、ツカサを見て、アイドルとも女優とも付き合うのは、無理だと思った。


俺の前で、泣いていても、笑っていても。


演技か本心か、俺には区別がつかない。


俺は、きっと、好きになればなるほど、アイドルだったり女優だったりする彼女を信じることができなくなる。


今まで、彼女がいたことがなく、告白したことも、されたこともないが。


これから作るとしたら。


疑心暗鬼にならないで済む彼女がいい。


俺が、そんなことを考えていると。


「金剛くんには、笑わせてもらった。腹筋を使ったよ。」

とツカサは、自分の腹をさすった。


「予想外に、ツカサの笑いポイントを貯めることになった。」


俺は平静を装って返す。


ツカサは、ひとしきり笑った後、真顔になった。


「あちこち、佳境に入ったから、あと一息だね、金剛くん。

今は見逃してあげるから、死なないうちに、逃げとけば?」

と真顔のツカサは、俺の肩を叩く。


俺は、有り難く、この場を離脱することにした。


ツカサと殺し合いして、勝てるとは思えない。


ツカサは、役者だ。


人殺しをエンターテイメントに昇華して、自分で見せ場を作れる役者。


俺は、そうする、と告げて、ツカサから離れた。


ツカサが殺す気になれば、俺に勝ち目はない。


ツカサとは争わない。


生き延びるためには、ツカサの邪魔をしない。


今、分かっているのは、それだけだが、それで十分。


俺は、人体の焼ける匂いに糞尿の匂いが混ざったことに気づいた。


下から色々漏れている参加者がいるが、誰も、恥じらいなどは見せていない。


「くさい、くさい。あっちにいけ。」


悲鳴と怒号と呪詛が巻き散らかされている。


ツカサのいるところには、誰も寄ってこなかったことに俺は気づいた。


そういう風に、誘導したのか?


メグたんか、北白川サナが。


メグたん、北白川サナ、ラキちゃんの姿を俺は探した。


三人は、どこにいるのか?


無事だろうとは思うが。



見晴台から離れると、火にまかれた参加者の数は変わらないが、火にまかれた参加者に捕まって火傷を負わされた参加者が増えていた。


火にまかれた参加者は、動きが鈍くなっていた。


何人かの参加者は、動きを止めてしまっている。


地面に転がると、全身の火の勢いが増すことを知っている参加者は、地面に倒れ込もうとしなかった。


苦しみが増すだけで、楽にはならない。


火にまかれた参加者が、手近な岩に寄りかかる。


立っていられなくなったか。


寄りかかった箇所は、火と高温に弱かったのか、熱したバターのようにとけた。


火にまかれた参加者は、とけた岩の真ん中に、はまり込んでいく。


火にまかれた参加者は、慌てて、背中から倒れていく姿勢を変えようとした。


手で岩を押して、勢いをつけて岩から離れようとしたが、手にまとわりつく火は、手の触れた箇所もとかしていく。


人工の岩は、火でとけて、高温になり、柔らかくなった。


柔らかくなった岩の中心部を通り過ぎて、岩の底まで、背中から一直線に倒れ込む。


岩の下には、人工の土が見える。


岩にできた隙間にはまり込むようにして、火にまかれている参加者が人工の土に触れたとき。


火の勢いは、俄然、強くなった。


火にまかれている参加者の火の勢いが増すにつれ、岩の溶ける速度も速くなる。


火にまかれている参加者は、体を起こそうとしてもがいた。


溶けた岩は、熱されたバター状になった後、粘り気のあるドロっとした液状になり、火にまかれている参加者の体にボトッボトッと垂れていく。


火に直接接していない面は、溶けたバターから、ドロっとした粘り気のある物質に変わる。


粘り気のある物質は、火を消すのではなく、火を包み込むように、火にまかれている参加者の体を覆っていく。


ドロッとした物質が、火にまかれている参加者の顔にボトッボトッと落ちたとき。


火にまかれている参加者は、緩慢な動作から一転した。


鼻に落ちてきた物質を必死で引き剥がそうとし始めた。


人工の岩は、いったんドロッとした物質になると、熱により溶けたバター状に戻ることはなく。


粘り気のある物質で固定されるようだった。


参加者の火にまかれている手が、顔に近づいても、ドロッとした粘り気のある物質は、熱に溶けたバター状に戻らない。


火にまかれている参加者は、手だけではなく、足もばたつかせていた。


ボトッボトッ。


火にまかれている参加者の顔に、ドロッとした粘り気のある物質が追加で落ちてきた。


鼻からドロッとした粘り気のある物質を引き剥がそうとする手ごと包みこまれた参加者の足は、動かなくなった。


背面全部、人工の土と接しているため、参加者の火の勢いは弱まることはない。


岩は、溶けて、ボトッボトッとドロッとした粘り気のある物質となり、参加者の体とその周辺に落ちていくが、火にまかれている参加者は、二度と動き出さなかった。


火と熱にやられたのではなく、窒息死だろうか?


ドロッとした粘り気のある物質に鼻を包みこまれた参加者は、呼吸ができなくなった人の動きをしていた。


俺は、ざっと見て、岩にもたれた参加者の他にも、似たような状況で動かなくなった参加者を確認した。


火にまかれている参加者の中に生存者はいなくなっている。


火にまかれている参加者に火傷を負わされた人は、まだ死んでいない。


果たして今、何人が五体満足で動けているか?


ツカサの言っていた『佳境に入った』という言葉が蘇る。


今ある光景が、佳境か。


『あと一息』は、いつ来るのか?


俺には、サバイバルゲームの終わりが見えない。


このデスゲームの終着点は、どこか?


俺は、立ち止まったまま、顔をあげた先で、北白川サナを見つけた。


北白川サナは、俺を見ていた。

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