171.警告を与えるときに、最も効果的な方法があるとすれば?目の前で、どんな結末になるか、見せてやること。見せしめに。
「あんたは、人殺しを良しとするんだな!」
とツカサに踏まれている男。
「良しもなにも。
他人の生き死にだが?」
建前以上に有益な情報が出てこないと飽きる。
煽るか。
「俺は、世間に無関心な冷血漢ではない。」
とツカサに踏まれている男。
「他人の生き死にに興味があるのは、人を殺すことに関心があるからだろう?」
「あるか!」
とツカサに踏まれている男は激昂した。
「修羅場や通り魔の現場で、写真と動画をあげるやつも。
あげられた写真や動画を探して使うやつも。
探し当てた写真や動画にコメントするやつも。
どいつもこいつも楽しそうだと思わないか?」
どいつもこいつもに当てはまる男は、ツカサに踏まれたまま、抵抗しない。
見る限り、死にかけてはいない。
ツカサに殺されることを警戒して、ツカサに逆らわないといったところか。
「見せたい瞬間を見せたいときにあげるのは、当たり前。」
とツカサに踏まれている男。
「人の生き死にの写真と動画をあげれば、注目される。
正義が勝たないデスゲームをこきおろすことで、注目を浴びて、それから、その後は、何をしようとしている?
正義の味方になって、世界征服か?」
「俺を悪者のように言うな!」
とツカサに踏まれている男。
「善良ぶるから、鼻について、死ねばいいと思われるようになる。
そう思わないか?
思い当たるだろう?」
「俺のことを死ねばいい、と思っているのか!」
とツカサに踏まれている男。
「ツカサに踏まれている男を死ねばいいと最後に思ったのは、俺だが。
最初に思った人は、別にいる。」
「誰だ!」
とツカサに踏まれている男。
「俺の推測で構わなければ。
ツカサに踏まれている男を死ねばいい、思う誰かがいたから、今、正義が勝たないデスゲームに参加しているのではないか?」
「俺を死なせたい誰かがいるというのか?」
とツカサに踏まれている男は怒鳴る。
「正義が勝たないデスゲームを選んだ理由はあるのか?」
「正義が勝たないデスゲームは、誰の目から見ても、悪だろう!」
とツカサに踏まれている男。
「有名人を批判して名前を売るのは、定番。
趣向を変えて、知名度を上げようとしたか?」
「俺を責めるな。正義が勝たないデスゲームを廃止すべきと言っているやつは、他にもいる!」
とツカサに踏まれている男。
正義が勝たないデスゲームを悪くいうやつが無事なままでいるのを見て。
正義が勝たないデスゲームを悪く言ってもノーリスクだと判断したか?
悪く言っているのは、デスゲーム運営のマッチポンプではないのか?
絶賛のコメントばかりでは、違和感を覚えられる。
戦略として、マイナスコメントを挟んで、正義が勝たないデスゲームに対する論調を調整。
もしくは。
デスゲーム運営が、さわってはいけないと、スルーを決め込むような危険人物が、批判しているか。
「残念ながら、何かをしても咎められない人が、世の中には存在する。
同じことをしても万人が咎められない、ということはない。」
ツカサに踏まれている男は、何をしても咎められる。
ツカサに踏まれている男は、誰が咎めても、誰にも気にされないタイプ。
その特性を活かして、正義が勝たないデスゲームの参加者になった。
その死は、誰の感情も揺らさない。
人の数が増えると、卑小な存在の扱いは、いつだって雑になる。
ツカサに踏まれている男が、今日、死んでも、死ななくても。
視聴者も参加者も、どうでもいいと忘れる。
俺は、ツカサに踏まれている男が哀れに思えてきた。
「何?」
とツカサに踏まれている男は、俺を睨んでいる。
「咎められていることに気づかずに、正義が勝たないデスゲームに参加していたのか?」
「咎められている?俺が?」
とツカサに踏まれている男は、鼻で笑った。
「正義が勝たないデスゲームから、生きて脱出できる方法があったとしても。
ツカサに踏まれている男は使えない。
理由は、ツカサに踏まれている男が、正義が勝たないデスゲームを生きて脱出することを、誰にも望まれていないから。」
ツカサは、男の背中を足で踏みつけたまま、爆笑した。
「そんな馬鹿な。」
とツカサに踏まれている男は、身動ぎした。
「正義が勝たないデスゲームは、自分で準備して配信しなくても、お任せで配信してくれる。
ツカサに踏まれている男は、死ぬまで生きていれば十分。
生き延びるための活躍は、視聴者のニーズにある参加者がする。」
「こんなところで、死んでたまるか!」
とツカサに踏まれている男は、ツカサの足の下から体をずらそうとして、ツカサに踏みなおされている。
「こんなところ、か。
こんなところ以外に、行き着く先はあったのか?」
「は?」
とツカサに踏まれている男は、ツカサの足を避けるために横移動し始めた。
「こんなところに来て、ツカサに踏まれる以外に、できることはあるのか?」
「何を。」
とツカサに踏まれている男は、仰向けになったところをツカサに力いっぱい踏みつけられている。
「やめろ!」
と、ツカサに踏みつけられているツカサに叫ぶが、ツカサは、笑いながら、足を踏み鳴らすように、男の腹を踏みつけている。
俺は、ツカサとツカサに踏まれている男を見ていた。
「ツカサは、役者として生きることに関心があった。
役者として評価した人が、ツカサにはいた。
だから、ツカサは、正義が勝たないデスゲーム内で生きている。
ツカサに踏まれている男を評価する人は、正義が勝たないデスゲームの視聴者の中にいるのか?」
「うるさい!」
とツカサに踏まれている男は、腹を守ろうと、転がり、うつ伏せで止まった。
ツカサは、リズミカルに男の背中を踏んでいる。
「視聴者の誰にも評価されていないなら、正義が勝たないデスゲームに参加した時点で、早い死を待たれている。
今日が命日になるか?」
ツカサに踏まれている男は、何かを口走りかけた。
「あいつ、あいつか、あいつが。」
やっと有益な話が聞けるか、と俺は期待した。
だが。
男は、何も言えなかった。
ツカサに背中を踏まれていた男の全身から力が抜ける。
男は、ぐにゃんとなる体を支えることができず、顔面を地面に激しく殴打し、二度と起き上がることはなかった。
「金剛くん、急に静かになったが、驚いた?」
とツカサは、俺に笑いかけてくる。
ツカサが背中を踏んでいた男が、『あいつ』について話す前に。
ツカサは、うつ伏せになっていた男の上半身を持ち上げて。
難なく背骨を折った。
バッキリと。
ツカサとツカサに踏まれている男と俺。
賑やかだった空間は、静まり返っている。
ツカサに背骨を折られた男は、死んでいる。
突然の事態に、俺の思考は止まったが、復活した。
ああ、そうか。
正義が勝たないデスゲームに参加した男を、ツカサが殺したのは、デスゲーム運営からの俺への警告か。
ツカサとメグたんに、正義が勝たないデスゲームから脱出することへの協力を仰いだ件について、デスゲーム運営は、俺に釘をさしにきたのか。
茶番について、合点がいった。
浮ついて、正義が勝たないデスゲームについて、ああだこうだ言う男を、俺の前に引きずり出し、俺の目の前で、ツカサに殺させる。
デスゲーム運営の狙いは、俺への警告。
正義が勝たないデスゲームに対する行動を改めないと、次はお前の番だ、と言う無言の、分かる人にだけ伝わる警告。
正義が勝たないデスゲームを脱出する俺の決意は、デスゲーム運営に知られている。
デスゲーム運営は、俺にそれを知らしめた上で、俺に対する見せしめを行った。
八方ふさがりか。
ツカサとメグたんを頼る脱出方法は、デスゲーム運営に潰されて、もう使えない。
デスゲーム運営は、ツカサのルートをデスゲーム脱出に使おうとしたら、ツカサに殺させるという結末を見せてきている。
どう動くか。
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