169.正義が勝たないデスゲームを脱出するための攻略の鍵は、ツカサにあると、ツカサに踏まれている男は言う。
ツカサに、背中を踏まれている男が地面から顔を上げた。
「コイツは、人殺しだ!」
と男。
人殺し。
と聞いても、響かないのは、デスゲーム中だからか。
「正義が勝たないデスゲームで、人を殺さずに生きていける方法はあるのか?」
張り切っている男に、話を聞く姿勢を見せてやる。
「俺が言いたいのは、今の話ではない。
ここに来る前の話だ。
コイツは、ファンと揉めて殺した。」
と男。
「殺したくなかったけど、死んでしまったね。」
とツカサは、笑う。
「殺したくなかっただと?殺す気だっただろうが!」
と男。
「殺したくなかった俺に殺させたファンがいたんだよ。
そのファンのせいで、役者を続けられなくなったオレに、役者で居続けられる場所として、ここを紹介してもらってね。
俺は、ここでの生活を楽しむことにしている。」
とツカサ。
俺は、ツカサと男の話を照合した。
「正義が勝たないデスゲームにツカサが参加する前に、ツカサが人を殺していたことが、ツカサにまとわりつきたいほど重要だというなら。
ツカサに殺されたファンが羨ましかったのか?
俺は、ツカサに殺されることにウキウキしない。
ツカサにつきまとう理由がそれか。
納得はしても、冥土の土産には足りない。」
冥土の土産が、一人の男の趣味嗜好の話だけでは、残念過ぎる。
「そんなわけ、あるか!」
と男。
「それなら。何を目当てに、ツカサにつきまとっていた?」
俺のためになる話は、何かないのか。
「ツカサが殺したファンは、そのへんにいる女だが、ツカサには、太客がいた。」
と男。
「太客がいることが、話のキモか。」
「ツカサの太客は、今もツカサの太客のままだ。
あいつらは、有料配信サービスでツカサを見るのを楽しみにしている。」
と男。
「俺の大事なファンの情報を持ち運んできてくれるために、正義が勝たないデスゲームに参加するなら、俺が踏んでいるのは、俺のファンの背中になるね。
俺に、声をかけてくる男のファンはいなかったから、歓迎を表して、全身を踏もうか?」
とツカサは、快活に笑っている。
「くそ。ツカサが、手引きをしたら、こんなくだらない場所を出られるのは、分かっているんだ。
ここから俺を出せ!」
と男。
ツカサが手引き?
それは、有益な情報を聞いた。
ツカサに嫌われている俺には、ハードルが高めだが。
「その情報は、どうやって調べた?」
「配信サービスを見ているうちに、ツカサが声をかけたやつは、死んでいなくなっていないことを発見した。」
と男。
「全員か?」
「全員かどうか、そんなことは、どうでもいい。
俺が、無事に生還して、俺が証明するだけだ。」
と男。
「何人かのうちの一人が成功したぐらいで、法則性を証明するのは、不可能ではないか?」
「法則性など誰も期待しない。
脱出の成功事例が一件、あればいいんだ。
脱出に成功しているやつが一人でもいれば、誰も、正義が勝たないデスゲームを有難がらなくなる。」
と男。
「世の中は、正義が勝たないデスゲームを有難がっているのか?」
俺の友達は、偉業をなしたことになる。
「ツカサが話しかけた何人かは、正義が勝たないデスゲームを生きて、脱出した可能性が高いのか。
ツカサにつきまとっていたのは、正義が勝たないデスゲームから脱出するのに、ツカサの協力を得たかったから、か?」
「そうだ。俺は、ツカサが脱出の鍵ということを実証するためにここへ来た。」
と男。
「このままツカサに殺される理由があることは、理解した。
ツカサの太客が、ツカサを手伝っていると証明することで、何を得るつもりだった?」
正義が勝たないデスゲームの運営か、ツカサの太客の斡旋で、この男は、正義が勝たないデスゲームに参加している。
ツカサに踏まれている男は、自分自身が、正義が勝たないデスゲームを脱出できない可能性を考えていないのか。
正解を知っているから、間違うはずがないと考えているのか。
ツカサに踏まれている男は、正解が人によって違うことを知らないのか。
社会においては、誰が何をするか、が重要であって。
同じ答えを持ち寄った人に、同じ結果が訪れることはない。
アイツがうまくやったから、俺も同じことをすればうまくやれる、という考え方をするタイプと、俺は、話が合わない。
他の誰かでは、うまくいくことでも、ツカサに踏まれている男では、うまくいかない。
俺にとっては、自明の理だが、この手のタイプは、自分がうまくいかないと、周りを悪く言い、賛同者を募る。
正義が勝たないデスゲームに送り込まれてきたのも、納得の人選。
ツカサが、この男を喋らせているのは、第二、第三のこの男が出てこないようにするためか。
喋らせたいことを、喋らせてから、息の根を止める結末は同じでも、俺という他人がいる方が、ツカサとツカサをつきまとっていた男の物語に、ストーリー性が出てきて、視聴者が興奮する、といったところか。
人殺しをエンターテイメントに。
今も、ツカサには、役者として、太客がついているという。
ツカサの太客は、ツカサのエンターテイナーとしての才能を評価しているのか。
娯楽を演出する才能。
「あんたは、こんな胸糞な有料配信サービスが、世の中にあっていいと思っているのか?」
と男。
ツカサの才能について考えていたら。
ツカサに踏まれている男が、寝言を言い始めた。
「いいに決まっているが。」
俺は、理解した。
ツカサに踏まれている男は、正義が勝たないデスゲームを潰しに来ている。
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。