168.タケハヤプロジェクトの参加者、テニス経験者っぽい男ツカサの職業。
ツカサは、弾けるような笑顔を見せた。
ツカサが面白いという感情のままに笑っている顔を見るのは、初めてだ。
阿鼻叫喚を背景にしても、ツカサは、感情のままに笑える。
ツカサに、タケハヤプロジェクトの適性があるという判定が出たのは、こういうところか。
まあ、俺も面白ければ笑うが。
正義が勝たないデスゲームの中では、不謹慎も何もない。
袖振り合うも多生の縁が、殺生で結ばれた縁なのは、俺の知ったことではない。
「金剛くんは、何を聞く?」
とツカサは、俺に興味を示した。
「まず、ツカサにつきまとって何がしたかったか、を聞く。」
ツカサの笑顔は、一瞬で消えた。
「聞いて損したよ。
正義を気取るしか能が無いなんて、つまらないね。」
とツカサは、足を上げ、男を何度も踏みつける。
「うっ。ぐっ。止めろ。」
と、うつ伏せで、ツカサに後頭部を踏まれている男。
「まだ、意識があって話せるのはありがたい。
一部の参加者にとって、ツカサには、デスゲーム中に一緒にいるとお得だと判断する何かがある。
それを俺は知らないから、冥土の土産に、その情報をもらっておく。」
俺が、目的を告げると、ツカサの表情は、無から一転した。
「金剛くんは、死にかけから冥土の土産を奪い取るんだ。
面白いね。」
とツカサ。
ツカサは、機嫌よく、男の後頭部を踏んでいる。
「ぐ。ぐ。」
と踏まれた男。
「生きて、話ができるうちに、喋らせたいんだが。」
ツカサは、ぶっと吹き出した。
「話しかけてみたら?」
とツカサ。
俺は、ツカサに踏まれている男に話しかけた。
「ツカサといるお得ポイントは、何か話せ。」
「お得ポイント。」
と繰り返すツカサは、楽しくて仕方がないのか、男の後頭部を踏むのを止めて、背中を踏み始めた。
「つきまとう特典がないなら、なんでツカサにつきまとっていたのか、分からない。」
「俺が、好青年だから?」
とツカサ。
軽い疑問形で話すツカサは、自身を好青年だとは考えていないだろう。
「好青年を印象づけるのは、うまい。
テニスサークルの部長にいそうだ。」
「へえ。」
とツカサは、陰のない笑い方をした。
もっと的確に言い表すとなると。
「いうなれば。好青年の演出はうまかった。」
「演出ねえ。演じている、とは言わないんだ?」
とツカサ。
「爽やかな陽キャの演出には、ツカサの見た目補正が効いている。」
ツカサは、見た目通りの人物像を演出し、周りを安心させてきたのだと思う。
「金剛くんは、趣味が人間観察、の人?」
とツカサ。
ツカサが、見当違いの疑問を投げてきた。
「いや。テニスサークルにいる本物の陽キャで部長やっているようなタイプは、俺と話が合わない。」
俺は、明確に否定する。
「まさかの自虐ネタ?」
とツカサ。
自虐する要素など、あったか?
理解したがっているツカサに解説してやるか。
「メグたんとツカサと話をしたとき。
ツカサは、俺を快く思っていないということが俺に伝わるくらいに、俺と会話ができていた。
俺と正しく意思疎通が可能なツカサの本質は、陽キャではない。」
「自虐の逆で、俺の美点を全否定してくるとは思わなかった。
はまり役だと思っていたのに。」
とツカサは、笑う。
「ツカサの外見的特徴を活かした演出だからこそ、不一致な点が目立った。」
「はまり役に、はまりきれてなかったかあ。」
とツカサ。
「詐欺師なら、半々で成功か。」
詐欺師としてのツメは甘いが。
「役者だよ。」
とツカサは、言葉をかぶせてきた。
「そうか。」
詐欺師ではないのか。
「金剛くん、舞台を観劇したことはある?」
とツカサ。
「ない。」
「芸能人のスキャンダルは知っている?」
とツカサ。
「知らない。」
「芸能人に興味がない?」
とツカサ。
「ない。」
「予想はしていたが、金剛くんは、好き嫌いがはっきりしているよね。」
とツカサ。
「俺の生活に関係ない他人のスキャンダルを気にする理由がない。
もっとも、取引先の場合は、気にする。」
「金剛くんは、人間関係を実利で考えているんだね。」
とツカサ。
実利もなにも。
「俺に合うか、合わないかさえ分かれば、その後の関わり方など考えるまでもない。
そもそも、誰かに合わせる気が、俺にはない。」
ツカサは、今までの会話で一番楽しそうだ。
「割り切りが徹底している金剛くんは、俺が金剛くんに合うか合わないか、で俺を判定して、金剛くんと話が合うから、俺が見た目通りではないと気づいたんだ?
金剛くんにしか使えないが、金剛くんだけは、外さない判定方法だね。」
とツカサは、感心している。
「ツカサが詐欺師ではなく役者という点が、話のキモになるのか?」
「俺は、今もまだ、現役の役者だから。」
とツカサ。
「自称か?」
容疑者が捕まったときの身分で、自称、会社役員、というニュースは聞いたことがある。
「どうだろう?俺は、役者を続けていくために、ここにきた。」
とツカサ。
「なるほど。それで?」
「こいつは。」
とツカサは、足で踏んでいる男の背中をグリグリと踏みつける。
「こいつは、俺が役者であることを知っていた。」
とツカサ。
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