153.『どうして、私を助けに来なかったの?最初は、私のことを助けるつもりだったのに。』とモエカ。
俺は、モエカと話を続けようとしたが、モエカが、先に答えてほしいことがある、と俺に要望を出してきた。
「答えられることなら、答えてやるが?」
「私を助けにくることもできたのに、助けにこなかった理由は?」
とモエカ。
「助けに、か。」
モエカの心残りになったか。
「最初は、私を助けるつもりでいたのに。
どうして、助けるのを止めたの?
次の順番が私だと話したことを聞いていた金剛くんは、私の番が来たと分かって、私を助けようとしていた。」
とモエカ。
モエカから標的をそらしても、モエカが今の状態になっていることが、最大の答えになるが。
モエカは、今の状況を、メグたんだけではなく、俺が助けなかったせいでもあると考えているのか。
「理由は、四つある。」
後顧の憂いがないように、口に出して説明しておくか。
モエカ以外にも、疑問に思っているやつはいる。
メグたんとか。
「一つ目。モエカに、助かる見込みがないことがわかったから助けなかった。
俺が止めたら、止めた分、モエカへの攻撃が長引いたはずだ。
今日で死ぬという結末は変わらないのに、苦痛を長引かせるのは、人道的ではないと俺は判断した。」
「人道的、の使い方、間違えていない?」
とモエカ。
俺の中では、間違いではない。
一輪車を転がしているその他大勢の参加を止めたのは、十分、人道的だと思う。
「二つ目。モエカが、俺の友達に手を下した女だから。
この理由は、タケハヤプロジェクトの学生全員に言えるが。」
「佐竹くんと仲良しだったのね。」
とモエカ。
仲良し?
そうか、仲良しか。
仲良しだと、言われたことも、言ったこともない。
生きている佐竹ハヤトに、俺達は、仲良しだと言ってやったら、どんな顔をするか、見てみたかった。
「三つ目。俺の友達とはいえ、俺以外の男の女になった女は、守備範囲外。
そもそも、命を賭けて助ける動機がない。」
モエカは、絶句していた。
何もおかしいことはない。
俺とモエカの間には、何も始まらなかった。
特定の男の女になっていながら、他の男の助けを期待する考え方が、そもそも、おかしくないか?
他の男の女の命のために?
指一本動かすのも、億劫にならないか?
「四つ目。俺は、佐竹ハヤトにモエカのことを頼まれていない。」
佐竹ハヤトが、正義が勝たないデスゲームに俺を関わらせた理由は、モエカを生かすことではない、と俺は判断した。
頼まれてもいないモエカを助けて、託されたことを放り出したら、本末転倒。
タケハヤプロジェクトの学生は静かだ。
メグたんをちらっと見ると。
メグたんは、変わらず、俺を見定めようとしている。
俺は、すぐに、メグたんから視線を外し、モエカに戻す。
「理解したわ。
金剛くんに助けてもらいたかったら、佐竹くんとの関係を話してはいけなかったのね。
友達の彼女だから、金剛くんが助けてくれるかと期待していたの。
見当違いだった。」
とモエカ。
俺には、モエカの主張の論拠が分からない。
「肝心の友達がいないのにか?」
モエカは、息をのんだ。
「金剛くんは、友達の彼女ではなく、友達が大事なのね?」
とモエカ。
「友達の彼女が誰でも、友達が、今も楽しくやっていたら、俺は、親切にしたが?」
俺が、じっと見下ろすと、モエカは、床に転がったまま、ため息をついた。
「私、完全に金剛くんのことを見誤っていた。
こんな失敗、始めて。
自分以外の誰かをあてにしたから、私は死ぬ。
今まで、誰にも頼ってこなかったのに。
こんなところで、私の人生は終わってしまう。
金剛くんにペースを乱されまくったせいで。」
とモエカは、恨み言をこぼしている。
人生の終わりに、綺麗事など言っていられない。
欲望の丈を吐き出してから、逝け。
佐竹ハヤトは、最後の最後まで、思うことを思うままに言葉にできずに死んだ。
孤独に。
誰にも看取られずに。
モエカには、詰まりに詰まった胸中を吐き出す時間がある。
モエカの吐き出しに、耳を貸してやる俺がいる。
見送りにしては、十分だろう。
「俺は、正義が勝たないデスゲームを見てきている。
モエカの出番があるときは、他の誰よりも、モエカから目が離せなかった。」
モエカが、佐竹ハヤトと両想いになっていたことなど、デスゲームのモエカを画面越しに見ていた俺は、知らなかった。
夢中で見ていた。
モエカが、正義が勝たないデスゲームを生き抜くところを。
モエカの必死で、生き延びようとする姿勢が、何よりも、誰よりも、俺の目をひいた。
「今になって、褒められてもね。」
とモエカ。
モエカの顔は、血と断絶した肉で赤く染まっている。
「会話ができるうちに、褒めておく。
理解できなくなってからでは遅い。
さようなら、も。
さようなら、の前に、言っておきたい、何もかも、も。」
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