148.人殺しを競技ととらえるなら、人殺しは、人の歴史の中で、最も伝統ある競技だ。高視聴率を叩き出せる。
正義が勝たないデスゲームにおいて、参加者の旬などあってないようなもの。
「タケハヤプロジェクトの学生の見せる死は、いつ見ても、変化がなかったのではないか?
変化がないのは、品質維持という点では、評価される。
どんな相手にあたっても、どんな場面でも、同じ仕事をして、同じ成果を出し続ける。
毎回、殺す相手と場面の見極めが性格で、殺すための人の配分が的確。
配置された一人一人が仕事を疎かにせずに、自分の仕事を遂行する。
一人一人の能力に、大きなばらつきがない。
全員が、同じ結果を見据えている。
能力の差で、結果にばらつきが出るということにならないように、全員、能力は、上げすぎす、一定レベルを維持。
仕事を任せるには、この上なく、優秀なチームだ。
だが、全員が、同じ存在ではないだろう?」
集団の外から見ると差がないが、集団の中は、互いに同じだとは考えていない。
「何を指して、同じかどうかを聞いている?」
とタケハヤプロジェクトの学生。
俺の話によく耳を傾けるようになった。
「チームの中で、目立つ存在は必ずいる。
尖っていても、一人では目立たない。
集団の中にいるから、落差が際立つ。
人は、集団に埋没する人と、目立つ人に二極化する。
だいたいは、埋没する。
目立つのは、一人か二人。」
「それはそうだろう。」
とタケハヤプロジェクトの学生。
頭では分かっていても、自分に置き換えて考え、その事実を認めて、受け入れることは、難しいか。
「デスゲームの外なら、一人や二人が目立ったところで、チームでする仕事の評価は、チームに帰属する。
目立った一人や二人が引き抜かれても。
引き抜かれた一人や二人に、新しい集団との親和性が高くなければ、評価は落ちる。
一人か二人が引き抜かれた後に残された集団も、同じ。
正義が勝たないデスゲームの外の仕様は、集団に成果と評価が帰結することが多い。
正義が勝たないデスゲームの中の仕様は、把握しているか?
正義が勝たないデスゲームは、正義が勝たないデスゲームの外のルールとは異なる仕様だと理解しているか?」
「何が言いたい?」
とタケハヤプロジェクトの学生。
慎重に探りにきたか。
「まず、デスゲーム参加者の望みとデスゲーム視聴者の望む結果は、同じとは限らないということを認識できているか?」
「殺し合いを制するものが勝つ。生き延びないと意味がない。」
とタケハヤプロジェクトの学生。
他のタケハヤプロジェクトの学生を見ると、うんうんと何人もが同意している。
正義が勝たないデスゲームの参加者側は、生き延びることに意味がある。
「正義が勝たないデスゲーム参加者は、生き延びることが第一。
だが、正義が勝たないデスゲームの視聴者の望みを理解しているか?」
一つ一つを、掘り下げていき、投げ出さなければ、正解にたどり着ける
「生き延びるかどうか、ハラハラしながら、生き延びた人を応援する。」
とタケハヤプロジェクトの学生。
正義が勝たないデスゲームは、ニッチ向けだから、万人受けを狙う必要がない。
「応援したい一部に関しては、応援するだろうが、それ以外も応援されていると考えたのか?」
「集団競技とは、その団体を応援するものだ。」
とタケハヤプロジェクトの学生。
正義が勝たないデスゲームを集団競技に見立てて、役割分担していたのか。
「野球、サッカー、バスケ、バレーボール、のような競技の話か?
正義が勝たないデスゲームは、人殺しという競技か。
人殺しが競技なら、人類最古の競技として世界中で採用されてもおかしくない。
採用された日には、過去最高の視聴率を叩き出すだろう。」
「馬鹿にするな。」
タケハヤプロジェクトの学生の眉がぴくっとした。
俺は、褒めることを惜しまないのだが、褒めていても、褒めたと受け止められないことが多い。
「馬鹿になどしていない。新鮮な解釈だった。
人殺しは、人類の歴史から切り離せない。
正義が勝たないデスゲームの会員制有料配信サービスが好調なことからも、人殺しは、収益化できるだけの需要が見込めると分かる。」
「偉そうに、何様だ?」
とタケハヤプロジェクトの学生。
褒めても、不機嫌さが増していくのは、屈折し過ぎだ。
「俺にない気付きだった。」
「嫌味はいらない。」
とタケハヤプロジェクトの学生。
嫌味と受け取られたか。
「嫌味と受け取るのは、正当に評価されたいのに、評価されないという不満が、感情に乗って、受け取り方を歪めているせい。
俺には関係ないから、勝手に歪んでいればいい。」
「ふざけてるな。」
とタケハヤプロジェクトの学生。
俺との見解の相違は、相違で終わることが多い。
「ふざけていないが、本題に戻そうか。
デスゲーム参加者が生き延びたことを喜ぶ視聴者がいるか?
凝り固まった堅実な生き延び方を見るために、視聴者は金を払うか?」
タケハヤプロジェクトの学生は、黙りこくった。
タケハヤプロジェクトの学生は、総じて、適応力が高い。
適応力が高いタケハヤプロジェクトの学生に、正義が勝たないデスゲームの意義を理解させていたら、今の状況には、ならなかった。
「新鮮味がない、面白みがない団体の中で。
いてもいなくてもいい存在として集団に埋もれた状態で。
個々に生き延びるチャンスがあるか、と、考えたことはあるか?
これからも、全員が生き延びられると考えるのか?」
タケハヤプロジェクトの学生は、考え込んでいる。
そろそろ、いいか。
俺は、一人離れている話し手に視線を固定した。
「最初に雄弁に話していた男は、一人で離れて何をしている?
あの男は、話し手として、目立っていた。
正義が勝たないデスゲームの参加者の中でインパクトがあるか、というと、話していただけだったから加点はしないが、印象だけで言うと、記憶に残る。
分かるか?
記憶に残るかどうか、が、応援されるかどうかを分ける。」
モエカから、標的をすり替えてみたが、どうなるか。
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