146.正義が勝たないデスゲームの中に年単位で居ながら、人を殺して生き延びたタケハヤプロジェクトの学生は、情報統制されていた?
俺は、静まり返った空間に賽を投げる。
「場も温まったことだ。
後回しにしていたタケハヤプロジェクトの学生自身の価値について、話すとするか。
デスゲーム参加者自身の価値は、デスゲームで活躍しているかどうか、で決まる。
タケハヤプロジェクトの学生として、ではなく、一人のデスゲーム参加者として、デスゲーム内で見せ場を作れるか、だ。」
「見せ場とは何だ?」
俺は、見せ場とは何か、という質問に、俺の中の違和感を確信した。
タケハヤプロジェクトの学生は、正義が勝たないデスゲームに何年も参加していて、配信されていることに気づいていなかった。
モエカを除いて。
不自然ではないだろうか。
モエカが正義が勝たないデスゲームについて承知していたのは、モエカだけタケハヤプロジェクトの学生から離れて、単独行動していたからだ。
となると。
正義が勝たないデスゲームの参加者でありながら、タケハヤプロジェクトの学生以外の参加者とはコミュニケーションとらなかったタケハヤプロジェクトの学生は、正義が勝たないデスゲームについての情報を収集する機会を逃してきたために、正義が勝たないデスゲームが何かを知らずにいた、ということになる。
他の参加者と交流していたら、気づけるくらいの察しの良さを、タケハヤプロジェクトの学生は、標準装備で、備えている。
タケハヤプロジェクトの学生は、飲み込みが早いために、今日まで、正義が勝たないデスゲームで生き延びてこれた。
詳しい説明をされていないのにもかかわらず、ルールを見抜いた。
正義が勝たないデスゲームの理屈や理論を理解せずとも、人を殺すことが生き延びる術だと学習して実践し、今日まできている。
タケハヤプロジェクトの学生の学習能力の高さは、本物だ。
何者かが、タケハヤプロジェクトの学生に、正義が勝たないデスゲームのルールを学習させないようにしていた?
意図的に、正義が勝たないデスゲームの情報に触れないようにしていたとすると。
情報統制か?
誰の意図でか?
デスゲーム運営の意思と考えるのが自然に思えるが。
タケハヤプロジェクトの学生の中に、デスゲーム運営から送り込まれている参加者はいない。
タケハヤプロジェクトの学生は、自主的に、正義が勝たないデスゲームの情報を集めないようにしていた、ということになる。
俺が今話をしている男は、正義が勝たないデスゲームの情報を知りたがっている。
俺の話を遮る者がいないのは、正義が勝たないデスゲームの情報を知りたがっているタケハヤプロジェクトの学生が、少なくないということだろう。
タケハヤプロジェクトの学生は、全員の意思で、正義が勝たないデスゲームの情報を遮断していたわけではない。
タケハヤプロジェクトの学生の一部が、正義が勝たないデスゲームの情報を遮断することを決めて、学生全体を誘導したということか?
何のために?
「正義が勝たないデスゲームは、会員制有料配信サービスであることをまず、念頭においておけ。」
「それで?」
「金を払わせるなら、払わせた金に見合う楽しみを提供することを求められる。
つまらない死に方を見せられて金を払いたくなるか?」
「どうだろうな。」
と顔をしかめるのは、同意したくないからか。
何年もデスゲームに参加していながら、人を殺すことに、まだ、抵抗感があるのか。
人殺しに慣れなかったのか。
人殺しの実感がないのか。
人殺しになったことを指摘されて認めるのが、気に食わないのか。
どれだろうか。
「金を払う視聴者は、人の死に様に心を躍らせたがっている。
参加者は、戦って生き延びる姿や死ぬ姿を見せることを期待されている。
戦いに使うのは、参加者の頭脳でも、肉体でも構わない。」
「引き分けは?」
「引き分けは、止めておけ。
引き分けを見て喜ぶのは、デスゲーム参加者が生きていることを喜ぶ視聴者だけ。
デスゲーム参加者が生き延びるデスゲームなど、見たい視聴者がいるか?」
「見応えがあれば。」
引き分けで、続く世界が眩しいのは、虚構の中でこそ。
現実にあると、一瞬で興醒めする。
人と人が戦う姿を見て喜んでいる層には、勝敗を決するところまでが、勝負だ。
「正義が勝たないデスゲームの視聴者は、生きるか死ぬかの瀬戸際の攻防を楽しみ、死にゆく様に満足したい。
ただし、タイパは忘れないように。
死ぬまでに何日もかかるような死に方は、視聴者の心をつかまない。
視聴者は、デスゲームの開始から終わりまでの間で、結末までを見届けたい。
デスゲーム終了後に、死亡のテロップが流れる展開は、ない。」
「そんなにも、正義が勝たないデスゲームに詳しいのは、なぜだ?」
男は、胡乱げに尋ねてくる。
「俺は、正義が勝たないデスゲームを見ていた。」
「悪趣味だ。」
と俺に軽蔑の眼差しを向けてきた。
タケハヤプロジェクトの学生は、男を含めて、俺にドンビキしている。
モエカは、涼しい顔。
メグたんは、無表情だ。
「俺は、仲間を売って、死に追いやったことを正当化するほど悪趣味ではないが。」
「仲間を売ったのは、俺ではない。」
嘲笑うように話してやると、俺の話に声をかぶせてきた。
裏切りを指摘されるのは、嫌か?
タケハヤプロジェクトの学生が、佐竹ハヤトを直接手にかけたかどうか、など、俺には重要ではない。
俺が、タケハヤプロジェクトの学生を生かしておかなくてもいい、と考えるのは、タケハヤプロジェクトの学生が、佐竹ハヤトに自殺を考えさせたからだ。
佐竹ハヤトを死においやったタケハヤプロジェクトの学生は、全員、等しく、気に食わない。
仲間を売ったのは、俺ではない、と答えた男は、チラッと俺から視線を外した。
男が向けた視線の先には、俺とモエカから離れた場所にいる話し手が佇んでいる。
視線だけで、敵意を自分からそらしたつもりか?
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