142.俺の世界をつまらなくする才能の持ち主は、世の中からいなくなっていいと思うから、俺は、タケハヤプロジェクトの学生の関心をひいてやる。
俺の台詞には、誰も反応しなかった。
もっと煽らないと、興味をひけないか?
死ね、と言って、勝手に死んでくれたら楽だが、それでは、見せ場にならない。
まずは、見せ場を作るか。
俺は、息を大きく吸って吐いた。
「俺に殺されたいやつは、手を挙げろ。」
俺の声はよく響いた。
「死んだ佐竹ハヤトは、仲間だと言っていなかったか?
仲間が死んだのなら、仲間の後に続いて死んでも、おかしなことはない。
俺は、新参者で、殺すことに慣れてない。
殺されたいやつは、俺に殺されるまで、抵抗せずに、じっとしていればいい。
簡単だ。」
俺は、笑いながら、一人一人の顔を確認していく。
何度見ても、モエカ以外、知らない顔しかない。
俺を気味悪がっている顔を見ることに、驚きはないが、面白みもない。
こんなにつまらないやつらが生き残って、佐竹ハヤトが死ぬのか。
世の中は、つまらなくなるようにできているのか?
つまらないやつの方が、圧倒的多数派だから。
張り切っていた気持ちが、冷めてきた。
佐竹ハヤトは、俺のように、冷めた気持ちにならずに、この国の未来を憂い、この国を変えたい、という情熱を持っていた。
情熱があったがゆえに、殺されたのか?
この国が、変わらず衰退する方が、都合のよいやつらが、幅を利かせているせいか。
俺の生活を面白くなくしていいと思っているのか。
佐竹ハヤトのいなくなった世界が、続くことを俺は想像してみた。
佐竹ハヤトは、一緒にいると面白かった。
大学時代、俺は、退屈しなかった。
もう、佐竹ハヤトと会話することはないのか。
俺の世界をつまらなくする才能は、世の中にいらないと俺は思う。
俺の台詞に反応したのは、話し手ではなかった。
話し手は、モエカと俺から、一番遠い場所にいる。
逃げているのか、準備しているのか。
「佐竹ハヤトを殺したのは棚橋だ!」
「殺すなら、棚橋にしろ。」
話し手ではない、タケハヤプロジェクトの学生が声をあげる。
タケハヤプロジェクトの学生は、最初と違って、やる気が出てきた。
モエカに対するヘイトの高さを鑑みるに、佐竹ハヤトと同じく、モエカも、タケハヤプロジェクトの学生の中で元々孤立していたか?
「うるさい。
俺は、指図されると腹が立つ。
指図をしたやつは、手を挙げろ。最初に始末する。」
誰も手を挙げない。
このまま、なあなあ、になると見せ場にならない。
「おい、誰が、そんな煽りに乗るかよ?」
「相手にされないから、イキっているのか?」
タケハヤプロジェクトの学生が、俺を鼻で笑っている。
俺に煽る気はないが、だいたいのやつが、勝手に煽られる。
今までは、勝手に煽られるやつの相手など面倒だと思っていたが、デスゲームの中では、特技として申告するか。
「指図したやつが、手を挙げないなら、指図したやつの隣にいたやつが手を挙げてもいい。
正義が勝たないデスゲームの中で生きてきて良かったと思うことがあったか?
特に思い当たることがないなら、死んでおけばいい。」
「俺達は、こんなところで、死んでいい人間ではない。」
「お前は、いきがっているだけの価値しかないだろう。」
タケハヤプロジェクトの学生の何人かの関心は、モエカから俺に移った。
計画通り。
このまま、注目を集め続ける。
炎上は、初手が重要。
「俺は、タケハヤプロジェクトの学生が死んでも、嘆き悲しむことはない。
佐竹ハヤトの死は悲しかったが。
そういえば。
タケハヤプロジェクトの学生の死を嘆き悲しむ人が、デスゲームの外にまだ残っているか?」
タケハヤプロジェクトの全学生が、俺に注目した。
よく見ろ。
俺を見ろ。
俺は、良いことも悪いことも話していない。
可能性の話をしている。
さあ、不安になれ。
不安を膨らませろ。
生きていくことのヨスガにしていたものが、実は既にないかもしれない不確かなものだったという考えにたどり着け。
不安定になった精神をついてやる。
人間の強さと脆さの垣根が、揺るぎないもののはずがない。
タケハヤプロジェクトの学生が、集団で、モエカ一人にターゲットを絞り、床下に落として撲殺するのは、不可能ではない。
俺が、竹馬で、何人も撲殺するのは、容易ではない。
俺自身も、したくない。
だから。
俺がやりやすいように、踊らせる。
俺に投げ銭が飛ぶのが、確認できないのが、残念でならない。
デスゲーム運営は、俺の動きをどう判断するか?
最後は、デスゲーム運営にイエスと言わせてやる。
そのために、俺は動いた。
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