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137/490

137.悲劇は、弱いところに集中するが、弱い者が脆いとは限らない。

モエカの『もう遅い』ほど的確な『もう遅い』を俺は知らない。


モエカは、佐竹ハヤトを殺したことを自白した。


タケハヤプロジェクトの学生とモエカの間にある距離は、仲間だった佐竹ハヤトを殺したことに対する、学生側の忌避感や嫌悪感か。


かくいう俺も、モエカに親愛の情は沸かない。


モエカは、俺の友達を殺した女だ。


佐竹ハヤトが、協力を要請したのだとしても、モエカのしたことは、佐竹ハヤトの自殺幇助の域を超えている。


佐竹ハヤトが、死にたくない気持ちをねじ伏せて、死を選んだとしても、モエカがいなければ、佐竹ハヤトは最上階の窓から落下していない。


最上階の窓から落下して、助かる見込みはない。


佐竹ハヤトが、窓の外に出てすぐに、デスゲーム開始を宣言したのは、落下により意識を失う前に、タケハヤプロジェクトをデスゲームに切り替えた、ということだろう。


佐竹ハヤトは、どうしても死ななければいけなかったのか?


佐竹ハヤトが、死ななければ、なせないという思考になったのは、極限状態に陥ったがゆえに、視野が狭くなったのではないか?


モエカは短絡的になった佐竹ハヤトを止めて、死なないで済む方法を二人で探せなかったのか?


俺の疑念を、タケハヤプロジェクトの他の学生も考えただろう。


佐竹ハヤトが生きていた場合、モエカ自身に身の危険があったことを考え合わせると。


モエカが、自身の安全のために、肉体的にも精神的にも追い詰められていた佐竹ハヤトに自殺を促したのではないか、という疑いも抱ける。


モエカと佐竹ハヤトの会話を聞いた人間はいないのだ。


いくらでも、発言を偽造できる。


綺麗事にしてしまえる。


無理心中で生き残った者や、自殺幇助者を、情ではなく法が裁くのは、渦巻く感情が二次被害を呼び起こすことがないようにしているのだろうか。


自殺を決意した佐竹ハヤトのみならず、佐竹ハヤトを殺したモエカ自身も、極限状態にあった。


判断が、短絡的になるのは、佐竹ハヤトだけではない。


モエカもだ。


モエカは、自身が人を殺して生き延びた経験があるから、デスゲーム中に、人を殺す行為から逃げないのだろうか。



モエカの話から分かったことがある。


佐竹ハヤトは、建物の外に出れば、スマホが使えると知っていた。


スマホだけを外に出した状態では、佐竹ハヤトの狙い通りにはならなかった。


スマホを使うには、スマホの持ち主が、体ごと、建物の外にいる必要があった。


佐竹ハヤトが、死ぬ決心をしたのは、建物の外に体ごと出るためか?


佐竹ハヤトは、死ぬことと引き替えに、タケハヤプロジェクトを終わらせて、正義が勝たないデスゲームを始めた。


分からないことも増えた。


タケハヤプロジェクトは、正義が勝たないデスゲームに切り替わったのか?


上書きされたのか?


佐竹ハヤトが、スマホに話した台詞がきっかけで、タケハヤプロジェクトの仕様が、正義が勝たないデスゲームの仕様に変わったのか?


佐竹ハヤト一人で、仕様の変更が可能だったのか?


佐竹ハヤトに、協力者はいなかったのか?


タケハヤプロジェクトが乗っ取られる危機に直面してからか、乗っ取られる前からか。


佐竹ハヤトの台詞で仕様が変更できる仕様にしてあったなら。


タケハヤプロジェクトを終わらせて、正義が勝たないデスゲームを始めるタイミングは、もっと前でも良かったのではないか?


佐竹ハヤトが建物に入る前なら、タケハヤプロジェクトを終わらせて正義が勝たないデスゲームを始めるために、佐竹ハヤトが死ぬ必要はなかった。


佐竹ハヤトは、なぜ、そのタイミングを狙ったのか?


タケハヤプロジェクトの学生が全員揃っているからか?


タケハヤプロジェクトの学生が全員揃っていることが、タケハヤプロジェクトを止めて正義が勝たないデスゲームを開始するタイミングの決め手になったのなら。


タケハヤプロジェクトの学生を一箇所に集めるのが、佐竹ハヤトの目的だったのか?


何のために、タケハヤプロジェクトの学生を生かそうとしたのか。


タケハヤプロジェクトの学生を世間から隔離して、生き延びさせることが目的か?


それとも、タケハヤプロジェクトの学生が生き延びた先に続く未来が、目的か?


タケハヤプロジェクトの学生が生き延びた先に続く未来は、学生自身が死ぬまで終わらないデスゲーム。


俺が見る限り、タケハヤプロジェクトの学生は、全体的に摩耗し、疲弊している。


デスゲームに参加する前は、人殺しとは無縁な世界で生きてきたであろう学生達にとって、生きるために順応したとしても、人を殺すことは負担だっただろう。


佐竹ハヤトは、タケハヤプロジェクトの学生が、正義が勝たないデスゲーム内で疲弊することを想定していたか?


タケハヤプロジェクトの学生は、摩耗し、生きることに疲れながらも、生きることを諦めきれない状態になって、俺に助けを求めてきた。


佐竹ハヤトが、死ぬ前に、タケハヤプロジェクトの学生の現状を想定していたのなら。


佐竹ハヤトの目的は、一つしかない。


佐竹ハヤトが、モエカに告げた、『絶望のまだ先にある景色』とはどれのことを指しているのか。


佐竹ハヤトの言う『絶望』はいつのことか。


この建物に、タケハヤプロジェクトの学生が閉じ込められて、佐竹ハヤトが死んだ日か?


もっと前か?


それとも、もっと後、終わらないデスゲームの日々に、タケハヤプロジェクトの学生が疲れ果てた日か?


『絶望』したのは、誰か、が鍵になる。


タケハヤプロジェクトの学生か?


佐竹ハヤトか?


それとも、この国の未来を憂いた心か?

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