133.正義が勝たないデスゲームを始めたのは、誰か?
俺は、ご丁寧に聞いてやった。
「『◯◯しないと出られない部屋』からは、どうやって脱出した?
それとも、脱出できなかったのか?
佐竹ハヤト以外の学生は。」
話し手が、押し黙る。
デスゲームからの脱出は、参加者が死亡することによって、果たされることを、俺は、既に知っている。
話し手は、俺が知っている、という事実を知らないから、話あぐねているのか。
「学生にとって、都合の悪い話をすることに、気が引けるのか?」
十中八九。
『◯◯をしないと出られない部屋』に閉じ込められた学生は、部屋を脱出するための希望を見出した。
佐竹ハヤトに解説させて、タケハヤプロジェクトについて理解すれば、外に出られるのだ、と学生は理解した。
外に出ることが、何を意味するか。
学生は、この建物から脱出する方法を知らなかった。
佐竹ハヤトがタケハヤプロジェクトに取り入れた提案について、モエカが話していたうちに、情報漏洩に対するセーブ機能があった。
セーブ機能が、作動したのか?
『◯◯しないと出られない部屋』を出るための条件を、タケハヤプロジェクトの学生が満たした場合。
この建物の中にいるタケハヤプロジェクトの学生は、全員、死体となって、建物から出される。
死人に口なし。
佐竹ハヤトの渾身の傑作、タケハヤプロジェクトの機密情報は、タケハヤプロジェクトの敵の支援団体に吸い上げられた挙げ句。
タケハヤプロジェクトの功労者の佐竹ハヤトと、その証人となりうる学生は、全員、社会から隔絶した場所で人知れず、死体になる。
支援団体は、タケハヤプロジェクトを利用して完全犯罪を企てたのか。
他人の功績を奪い取るのも。
他人の土地を奪い取るのも。
他人の命を奪うことも。
奪うことは、生きること、か?
奪うことにかけては、右に出る者がいない。
そういう生き方で成功してきたやつらは、何食わぬ顔で、奪いにきた。
佐竹ハヤト以外のタケハヤプロジェクトの学生は、自分達が奪われる側に立っていることに気づいていなかった。
奪われそうになるまで、気付けなかった。
いつ頃、気づいたのか?
奪われそうになってからだとすれば、いつか?
「都合の悪い話などは、ない。
事実を話すだけだ。」
と話し手。
「事実なら、聞こうか。」
「佐竹ハヤトにタケハヤプロジェクトについて話すように、伝えたが、佐竹ハヤトは、頑なに拒否した。」
と話し手。
拒否しないはずがない。
支援団体の目論見通りに、タケハヤプロジェクトの学生が、全員死亡する未来しかないのに、突き進むか?
タケハヤプロジェクトの学生は、無気力になっていたが、元々は、それなりに優秀で、意欲的だったはず。
タケハヤプロジェクトに参加してきたときには、この国の未来をよくしよう、という思いがあったはずだ。
熱意と希望と少しの才能があって、タケハヤプロジェクトに参加した学生。
タケハヤプロジェクトの学生が、支援団体という敵に、やすやすと、金の卵を産むガチョウを譲り渡して、自ら貧乏になろうとするくらいに、変わり果てたのは、なぜか?
タケハヤプロジェクトに参加している学生が、佐竹ハヤトに説明を要求する事態が、そもそもおかしい、ということに、誰も気づかなかったのか。
気づかなかったのではなく、気づかないように振る舞っていた、か?
佐竹ハヤトに指摘されても尚、気付けないのは、賢くなることへの拒絶反応か。
タケハヤプロジェクトに参加した学生のうち、支援団体に賢い認定された学生は、初期のうちに、人生を捻じ曲げられているのではないか?
賢くなると生存を脅かされるという現象を目の当たりにし続けて、賢くなることへの恐怖から、賢くない行動を繰り返すあまり、賢くない思考が染み付いて、判断力が鈍った、か?
賢くならないことで生き延びた学生は、俺に知らせたいことがある。
「佐竹ハヤトが拒否して、それから?」
わざわざ、俺に、今頃、佐竹ハヤトの死の真相を話す真意。
タケハヤプロジェクトの学生は、俺に何を求めているか。
「佐竹ハヤトは、話をしないまま、死んだ。」
と話し手。
「途中経過を端折ったのは、わざとか?
今までは、微に入り細をうがつように話していたが。」
話をさせようとボコボコにしたのは、話したくないのか?
武器がなくても、人間は、肉体を使って、人間にダメージを与えることができる。
人数がいれば、男一人くらい、どうにでもなる。
佐竹ハヤトは、暴力的な振る舞いを好まなかった。
「佐竹くんには、何度も話すように説得したのよ。
佐竹くんは、頑として、聞いてくれなかった。」
とモエカ。
「思い上がるな。
佐竹ハヤトの成果をどうするかを決めるのは、佐竹ハヤト本人だけで十分。」
佐竹ハヤト以外のタケハヤプロジェクトの学生は、今もデスゲーム内で生きている。
タケハヤプロジェクトの学生を生かしたのは、佐竹ハヤト。
命の恩人に対して、かける言葉は選んだほうがよくないか?
「余計なことを話しすぎたから、今は、重要な事実だけを話す。
佐竹ハヤトは、死ぬときに、『タケハヤプロジェクトは終わり、正義が勝たないデスゲームが始まる』と言い残した。」
と話し手。
笑える。
俺が、タケハヤプロジェクトの学生の目論見に気づかないで話を聞いていると思ったか?
俺の友達の功績にただ乗りしようとした厚かましさ。
俺の友達を自分達の安牌のために、敵に売った性根。
どちらも指摘しないから、俺が気にしていないと考えていたか?
俺と佐竹ハヤトの友達だった。
俺にとって、自分から関係を切りたくない、たった一人の友達だった。
「俺達とも、その他の参加者とも違うあんたにしか、頼めない。
あんたは、俺達に残された唯一の希望だ。
佐竹ハヤトが始めた【正義が勝たないデスゲーム】を終わらせてくれ。
俺達は、もう、終わりにしたい。」
と話し手。
周りから、うんうん、と賛同の声があがる。
そうか、そうか。
そんなに、死にたいのか?
悪くない。
ここは、デスゲームだ。
脱出させてやるのは、難しくない。
佐竹ハヤトは。
俺の友達は、絶対に死にたくなかったはずだ。
志半ばで。
こんな場所で。
変わっていく未来を見届けられないままで。
「だったら、佐竹ハヤトが、死ぬまでの経緯を端折らずに話せ。
自己憐憫は、いらないから、端折れ。」
俺は、デスゲームを脱出して、見届けてやる。
俺の友達が成し遂げようとした未来を。
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