132.最上階の部屋に閉じ込められて、助けを待つ学生。部屋の壁に、字が浮かび上がる。『◯◯しないと出られない部屋』デスゲームが開始した瞬間。
俺は、初日に探検した部屋を思いだしながら、聞く。
「最上階にある部屋は、どんな部屋だった?」
「真っ黒な壁と床。
何もない部屋だった。」
と話し手。
俺の記憶に、黒い部屋は、ない。
黒い壁と黒い床、か。
模様替えしたのか?
今は、部屋のことは、おいておく。
気分が滅入りそうな色合いの部屋に、学生は、閉じ込められたのか。
それで。
「明かりは、ついていたのか?」
「ついていた。天井は白くて明るかった。」
と話し手。
話し手の言葉数が減った。
今から、佐竹ハヤトの最期までの時間を語ることになるからか?
話し手は、徹頭徹尾、佐竹ハヤトを天才だが、自分達とは相容れない人物だという印象操作を行っている。
佐竹ハヤトの友達だった俺には、効かない小細工だったが。
タケハヤプロジェクトの学生が揃っているはずのこの部屋に、今、佐竹ハヤトがいないことについての真相を聞こうか。
「俺達は、白い天井と黒い壁と床の部屋に閉じ込められた。」
と話し手。
「どうやって、その部屋から出た?」
「何の予告もないまま閉じ込められて、助けは来なかった。」
脱出方法を即答することは、避けたいのか。
「分かるか?
何者かの掌にいて、これから何をされるか分からない、という恐怖が。
スマホも使えない。
そんな中で、俺達は、励まし合っていた。
立っているのも、体力を使う。
何もない床に座って待っていた。
待っていたんだ。
俺達は、不安だったが、諦めてはいなかった。
助けは、必ずくると思っていた。
助けが来ないはずがない、と俺達は信じて疑わなかった。
不幸中の幸いで、支援団体は、俺達が、この建物に入ったことを知っている。
終了予定時刻になっても、建物から出てこなければ、支援団体が連絡してくる。
連絡して、連絡が繋がらなければ、誰かが俺達を探しに来るはず。
その誰かが、俺達のように閉じ込められて、出られなくなったとしても。
支援団体は、俺達が、タケハヤプロジェクトの学生が、この建物の中に入っていったところを見ていた。
俺達と連絡が取れないと気づいたら、最初にこの建物を探すはず。
俺達を探しにいったのに帰ってこない、という人が増えたら、支援団体は、警察に捜索願いを出す。
一人や二人じゃなく、学生が集団で帰ってこないなんて、異常事態だ。
学生が集団で行方不明になったら、事件や事故を疑うはず。
警察も、真剣に探してくれる。
俺達の家族や友達は、俺達と連絡が取れないと気づいたら、必ず探す。
薄情な身内は、一人もいない。
友達は、SNSで拡散希望するかもしれない。
大げさになるが、今回は目をつむってやればいい。
状況が分からなくて、困っているのは、お互い様。
SNSで、人探しをしたら、山で行方不明になった人を捜索するみたいに、近隣の市町村別から、人が集まってくるかもしれない。
そんな風に話をしながら、俺達は、助けが来るのを今か今かと待っていた。」
と話し手。
「支援団体は、学生を探すための人を寄越したか?」
「いいや。
待っても、部屋の中に、人は増えなかった。
誰も入ってこない入口を見て待っていても、入口は固定されたまま。
どこからも、足音一つ、聞こえなかった。
俺達は、待つことに疲れ出した。
俺達は、待っている間に、当初の目的だった、タケハヤプロジェクトの解説を佐竹ハヤトにさせることにした。
何もしないで、いつ来るとも分からない助けを持つことに、俺達は、限界を感じていた。
佐竹ハヤトは、タケハヤプロジェクトの解説を聞きたいと言う俺達の頼みを拒否した。
佐竹ハヤトは、天才だったが、人の心の機微が分からない、分からず屋だった。
『何が起きるか分からない、という不安を抑え込むには、待っている間の気を紛らわせる必要がある』
と俺達が説明しても、佐竹ハヤトは、自分のすべきことを理解しなかった。
『気分転換にちょうどいい良かったのに。』
『自分だけが賢いつもり?』
『ケチケチしていて、融通が利かない。』
『勿体ぶることではないのに?』
タケハヤプロジェクトについての説明を拒否した佐竹ハヤトのせいで、部屋の中の空気は悪かった。
『俺に説明を要求するのが、俺以外のタケハヤプロジェクトの参加者の学生全員とは。
タケハヤプロジェクトに参加していながら、今の今まで、何もしてこなかっただけでなく、何も理解してこなかったことについて、不甲斐ない己を反省することから始めたらどうだ?
タケハヤプロジェクトが成功した今。
タケハヤプロジェクトの説明を一から聞いて理解したところで、学生が使う機会は、一生ない。
タケハヤプロジェクトは、未来のない学生の暇つぶしにしていいものではない。
俺は、タケハヤプロジェクトを完遂させる。
俺以外のタケハヤプロジェクトに参加する学生が、タケハヤプロジェクトの天敵の支援団体に尻尾を振って、支援団体による乗っ取りに協力したとしても、俺は協力しない。
俺がいなければ、タケハヤプロジェクトは始まらなかった。』
佐竹ハヤトは、一人で、俺達相手に息巻いていた。」
と話し手。
話し手は、俺の友達をサゲてサゲて、サゲまくっている。
「合理性を好む佐竹ハヤトらしい発言だ。
息巻いていたように見えたのは、学生に余裕がなかったからだろう。」
俺が、佐竹ハヤトを肯定し、学生サゲをすると、話し手は、顔をしかめた。
「突然、黒かった壁に、白抜き文字が書かれた。
【タケハヤプロジェクトについて、学生全員が理解しないと、出られない部屋】と。
俺達は、佐竹ハヤトに説明をさせて理解しなくてはいけなくなった。」
と話し手。
『◯◯しないと出られない部屋。』
エロの定番だが、今回は、エロではなく、タケハヤプロジェクトについて、明かすことを条件にしたのか。
条件を達成したところで、誰も生きては出られない。
デスゲームとは、そういうものだ。
俺の友達が命を失うことになったデスゲームは、『◯◯しないと出られない部屋』だったのか。
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