129.天才、佐竹ハヤトの活躍に、天才とはほど遠い学生は何を思い、何をしたか?俺の友達は、ゼロになった。
話し手は、朗々と語るようになった。
話し手にとって、話したい山場は、最低でも二つある。
佐竹ハヤトを死においやった出来事。
タケハヤプロジェクトに携わった学生が、デスゲームの参加者になったこと。
演説が好きな性分だったら、佐竹ハヤトとは合わなかっただろう。
『口を動かすときに、同時に手と頭を動かせば、半分の時間で終わる。』
というのが、佐竹ハヤトの口ぐせだった。
佐竹ハヤトは、大衆心理よりも、合理性を追求していた。
俺は、佐竹ハヤトの行動プロセスが明確なところに助けられていた。
なんで、生きているときに、俺に助けを求めなかったんだ?
俺は、決して優秀ではない。
友達を生かすために、できることが、何かないかと探し、できることを見つけ出して着手するチャンスも時間もなく、友達が既に死んでいると知らされることになるとは、思わなかった。
俺達、友達だろう?
俺は、助けてくれ、と言われないと気付けないんだ。
死なれたら、もう会えない。
俺が、寂しいだろうが。
まさか、俺が寂しがることを想定していなかったのか?
俺の、連絡を取り合うような友達は、佐竹ハヤトしかいなかった。
俺の友達は、ゼロになった。
友達を作るのも、友達で居続けるのも、俺には、いちいちハードルが高い。
デスゲームを脱出したとしても、友達ゼロを更新する未来しか想像できない。
友達ゼロを更新することは、今まで通り、か。
いや、一がゼロになるのは、今まで通りではない。
「タケハヤプロジェクトの学生は、佐竹ハヤトの手回しの良さにスカッとした反面、手放しで、佐竹ハヤトの活躍を喜べなくなった。
なぜか?
支援団体が、恥をかかされたと、報復に出るのではないか、と恐れた。
佐竹ハヤトを除く全員が、ビクついていた。
支援団体は、学生の怯えを見抜いて、学生にすり寄ってきた。」
何もしない学生は、成果を出した佐竹ハヤトに、勝手に不満を抱いて、不満を抱いていることをタケハヤプロジェクトを乗っ取りたい支援団体に見抜かれていたという話か。
話し手は、何もしない学生が、成果を出した佐竹ハヤトに不満を抱くことをおかしいとは感じていない。
俺は、佐竹ハヤトの側に立って考えるから、何もしなかった学生は、不甲斐なさ感じて恥じ入るところだろうと思う。
話し手と俺が分かりあうことは、ないだろう。
情報がほしいから、話しは聞く。
「どうなった?」
「結果から言うと、ビクつかないで良くなった。」
「なんでだ?」
「タケハヤプロジェクト内では、学生同士で仲良くするように、と支援団体は、佐竹ハヤトに説得して、佐竹ハヤトは了承した。」
学生は、佐竹ハヤトを裏切ったのか。
ただ一人、突出していた天才、タケハヤプロジェクトを守り抜いた佐竹ハヤトを、タケハヤプロジェクトの学生は、支援団体に売ったんだ。
俺の友達は、何もしない学生に売られたのか。
俺の思考は、怒りに染まった。
天才の死因は、目先の安定しか頭にない凡夫に裏切られたことか。
モエカが、佐竹ハヤトを死に至らしめたという言い方をしていたが、事実を見極めよう。
俺とタケハヤプロジェクトの学生は、同じものの見方をしないと分かった。
「佐竹ハヤトが、了承したなら、支援団体とタケハヤプロジェクトの学生の思い通りになっているだろう。
なぜ、佐竹ハヤトが死ぬことになったのか?」
「タケハヤプロジェクトの成功を祝って、タケハヤプロジェクトの学生同士で親睦を深めることになった。」
成功させた佐竹ハヤトの功績をたたえて、慰労のために、という言葉は出てこないのか。
佐竹ハヤトと他の学生が親睦を深めるのは、天才に突出するのをやめて、できの悪い方に合わせることを強要させるためか?
俺の見方は、穿ちすぎか?
外れてはいないと思うが。
佐竹ハヤトの不幸は、タケハヤプロジェクトには、しぼりかすみたいな足を引っ張る学生しか残っていなかったということか。
優秀かつ、佐竹ハヤトと対等になれる学生は、身の危険を感じて、タケハヤプロジェクトから既に抜けた後だったのではないか。
「親睦会で、何かが起きたのか?」
「その通り。
親睦会は、タケハヤプロジェクトの会場になっている建物内部を見学しながら行うことになった。」
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