123.タケハヤプロジェクトの始まり、とは?『減少する人口で、今以上の成果を出すようにプログラムを組み直し、縮小社会へ適応する。』
俺に向かって話している参加者は、一人。
佐竹ハヤトに不満を抱えつつも、佐竹ハヤトが何をしたのか、について話をしているのは、一人だけ。
同調する参加者も、話を止める参加者もいない。
話に加わろうとする参加者もいない。
モエカは、口をつぐみ、その他大勢に溶け込んでいる。
メグたんは、モエカの横にいて、表情を変えない。
メグたんの眼差しと表情からは、感情が見えない。
このデスゲームの参加者は、知り合い同士でありながら、他人の動向に興味がないのか?
知り合い同士だからこそ、興味がないのか?
元から他人の動向に興味がないのか、途中から興味がなくなったのか?
途中から興味がなくなったとすれば、いつからか?
きっかけがあったとすれば、それは、どんな出来事か?
俺は、話している一人に視点を固定せず、周囲に視線を泳がしている。
一人だけが話すことに、何か意味があるのか?
一人は、周りの反応を気にする素振りを見せずに話を続けている。
「佐竹ハヤトの国への提言は、縮小する社会への適応というものだった。
後の、タケハヤプロジェクトの軸になった考え方だ。
佐竹ハヤトは、最初にこう言った。
『国民は、無い袖は振れない、と節約するが、国は無い袖を振ろうとします。
国民と国の方向性のズレが、国民と国の両方を貧しくし、苦しめるのではないでしょうか。
国も国民と同じように、あるものでやりくりしていけば、この国は持ち直します。
しかし。
何の策もなく節約するだけでは、貧乏が加速します。
国は、資産を溜め込むことがないように投資を推進していました。
国にならって、資産と投資の観点から、話をしていきます。』
当時、佐竹ハヤトは、高校生だった。
高校生の提言として、周りは聞いていた。
多少の論理の破綻があっても、最後まで聞いてやろう、という雰囲気だった。
国が推し進めてきた政策に対して、真っ向から反対意見を突きつける提言を佐竹ハヤトはしてくるということを、全員が、感じ取っていた。
『投資してきた資産が、どんどん減っていくことに気づいて、危機感を覚えた一般人を例に話をしていきます。
この国は、大小あわせて、バブルとバブルの崩壊を経験してきました。
バブル崩壊後の社会を想定してください。
国民の大半は、一般人です。
バブル崩壊後の一般人がどんな方法をとるか、考えてみてください。
選択肢は、以下の四つ。』
『一つ目、大逆転狙いで、投機筋につぎ込む?』
『二つ目、塩漬けにして、V字回復を待つ?』
『三つ目、損切りをしてから、国債などの値動きの小さい商品にシフトする?』
『四つ目、投資を止める?』
『二つ目と三つ目は、使う予定のない資産を元手にしていた人だけが使えます。
使う予定がないということは、そのお金がなくても、生活していくのに困りません。
氷漬けにしたり、長期で寝かせていても、生活レベルは変わりません。』
『資産が増えていくことを前提に予算を組んでいた場合は、資産が減ることを許容できません。』
『どうにかして、損した分以上に資産を増やさないと破綻するような状況なら、一か八かで、投機筋につぎ込むことがあるかもしれません。』
佐竹ハヤトは、堂々と話をしていた。
『この国の現状ですよ。大損したことを直視できずに、傷を広げ続けているんです。』
『ここからが、私の提言です。
一般人の国民なら、資産を減らさないために、四つ目、投資を止めるという選択をして、今あるもので生活をまかなおうとするでしょう。
国も同じことをすれば、いいだけです。
この国の未来を考えるなら、右肩上がりを前提にする時代は終わったと認識して、右肩下がりの時代になったと認識を改めてください。』
佐竹ハヤトは、一度、話を切って、周りをみまわした。
『私が、資産に例えて話しているのは、この国の人口の話です。』
『この国の人口が、減り続けていることが判明してから、少子高齢化問題は、よく取り上げられてきました。
この国が取り上げる問題は、少子高齢化ではありません。
人口減少の流れが定着してしまった今、人口は減少し続けるものとして、社会のシステムを変えていくんです。』
『縮小する社会に適応すること、が私の提言です。』
人口減少や、少子高齢化については、子どもの数を増やす施策が実施したり、年金制度を変えたりしてきた歴史が、この国にはある。
聴衆は、話の先行きが見えた気がして、げんなりしていた。
しょせんは、高校生か、と。
佐竹ハヤトは、聴衆の飽きを感じ取っていたはずだが、うろたえたりはしなかった。
『具体的には、社会のミニマム化です。』
『減っていく人口に社会を合わせていきます。』
佐竹ハヤトは、人を増やすことに固執しない政策への転換を呼びかけた。
『母数となる数が減り続けている中で、外から足して無理やり増やした結果が、今です。
明治時代のように、この国に有益なお雇い外国人が増えましたか?』
佐竹ハヤトは、綺麗事で話をしなかった。
『人は、水とは違います。
人を足すことは、水にさし水するのとは違うんです。
後から足した人は、元からいた人に混ざりません。
人は、混ざらないから、別々に存在しているんです。
元からいた人は減り続けて、後から足した人は増え続ける現象が続くと、どうなりますか。
増える人を足したということは、多数派と少数派が入れ替わる未来を作ったということです。
増え続けて混ざらない人と減り続けていく人の割合はいずれ逆転します。
逆転したとき。
増え続けた人は、減り続けていく人をどうするでしょうか?
保護しますか?
保護するために、囲いの中に入れるでしょう。
囲いから出ないようにして、滅んでいくのを待つでしょう。
待ちきれなければ、駆逐するでしょう。
増えた人の楽園にするために。』
佐竹ハヤトは、ガヤガヤする聴衆に話し続けた。
『私は、このような未来を回避するために、縮小する社会に適応することを提言します。
さらに。
縮小する社会に適応した上で今以上のパフォーマンスをあげるような社会に変えていく方法を提案します。』
佐竹ハヤトは、具体的に、と話を続けた。
『人口が増え続けることを前提に組まれた現行システムを、人口が減り続けることを前提に組み直します。
人の作業を機械に変える工業化の発想を推し進め、機械でどうにもならないところを人がします。』
佐竹ハヤトは、聴衆に訴えた。
『私が考案したプログラムを実際に、何箇所かで使ってください。』
佐竹ハヤトに興味を持った大人がいた。
佐竹ハヤトの提言を元に、佐竹ハヤトを中心にすえて、有益な提言をした学生の意見を取り込む形で、佐竹ハヤトの提言を実現させることになった。
それが、タケハヤプロジェクトの始まりだ。」
元から真剣に考えるコンテストだったのか。
佐竹ハヤトが、真剣に考えさせるコンテストに変えた、か。
「タケハヤプロジェクトの始まりは、理解した。
説明ありがとう。」
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。