119.不穏な提案を実現させる優秀さを備えていることは、生きていく助けになるか、邪魔になるか?
モエカは、俺を光のない目で見続けている。
「ねえ。金剛くん。
悪意がなければ、してしまったことの責任を取る必要がない、という考え方をどう思う?」
とモエカ。
佐竹ハヤトの生死については、だんまりか。
代わりに、何かの問答を始めるのか?
この期に及んで、悪意について問われるとは。
デスゲーム内にいる限り、殺意から逃れられない。
殺意と悪意は、イコールのこともあれば、ノットイコールのこともある。
モエカがわざわざ俺に聞いてきたということは、誰かの悪意のない行いを腹に据えかねた、ということか。
当たり障りのない回答も、綺麗事も、モエカを刺激するだろう。
モエカを刺激しないように、モエカの意向を取り入れながら、俺のすることを話すか。
「悪意がなくても、浅はかであった結果。
何かしらの被害を被った側が、泣き寝入りをするか、しないか、という認識でいいのか?
浅はかであったことについて責任を追求しても、浅はかな思考の持ち主は、責任をとろうとしないだろう。
労力に見合う成果を上げるのが難しいと分かった段階で、関わりを断つ方を俺は選ぶ。」
関わりを断っていくうちに、俺の周りには、人が減ったが、生きていく上で、不自由はしなかった。
「金剛くんは意外性の塊だと言われない?」
とモエカは、光のない目で笑う。
「俺の意外性を発見して踏み込んできた友達は、一人いたが、もういない。」
佐竹ハヤトは、俺のことを面白がっていた。
面白いから、友達になった、と俺に言ってきた唯一の友達が、佐竹ハヤト。
佐竹ハヤトが、デスゲームにいた理由は何だ?
俺の言う一人が、誰をさしているか、モエカは気づいている。
「佐竹くんは、佐竹くんにしかできないことをやり遂げた。
だけど、佐竹くんだけでやり遂げたわけではなかった。
佐竹くんは、一人ではなかったから。
佐竹くんの周りには、いつも誰かがいた。
佐竹くんは、誰かの意見を取り入れ、昇華させるのが上手だった。」
とモエカ。
今のモエカの話は、タケハヤプロジェクトの件か?
「モエカの提案も取り入れられたのか?
デスゲーム運営に助けを求めた男の提案も。」
気になっている男の情報も確認しておく。
「あんな男と、一緒にしないで。
私の提案は、取り入れられたわ。
死んだ男は、佐竹くんから情報を持ち出そうとして見つかったから、デスゲームにいたの。」
とモエカ。
情報を持ち出そうとした?
「企業スパイに制裁か?」
「さあ、どこの誰でもよくない?
死体になったら、何もできないわ。」
とモエカ。
「話すことも、逃亡も、死んでからはできない。
脅威にはならないということか?」
モエカは、光のない目のまま笑う。
「制裁というよりも、悪事を働いたことに対する罪を償わせるためね。
あの男が、佐竹くんの情報を持ち出そうとしたことが発覚したとき、誰が、情報を持ち出されることを嫌がったと思う?」
とモエカ。
誰が?
話の流れからして、佐竹ハヤトではないのだろう。
「共通の知り合いがいない俺には、分からない。」
俺は、さくっと流す。
「佐竹くんではないの。
佐竹くんは、情報を盗まれようとしたことなんて、気にもとめていなかった。
佐竹くんは、自分の中で終わったら、対象に興味を失うの。
新しい挑戦が、佐竹くんの原動力だった。」
とモエカ。
俺の友達が意欲的に、課題に取り組むタイプだとは。
全然知らなかった。
「情報が漏れることを嫌がった人達は、佐竹くんに、次のように吹き込んだの。
『情報が漏れないようにした方が良い。
情報を漏らす人間を出さない。
情報を漏らしたら、一生かけて償う。
この二つを追加しよう。』
佐竹くんは、提案を面白く感じて、完全に情報が漏れないようにした。
佐竹くんは、一人で成し遂げたけれど、佐竹くんに提案していた何人かは、ついていけなくなった、と言って離れた。
佐竹くんは、新しい課題に取り組むのが楽しそうだったけれど、楽しくなくなった人達もいた。
佐竹くんの周りにいる人は、減った。
次に、佐竹くんは、同じ人から、こんな提案を受けた。
『計画が破綻しないように、計画の存続が危ぶまれる要素を徹底して取り除くことを組み込もう。』
佐竹くんは、全力で取り組んだ。」
とモエカ。
不穏だ。
何の計画にしろ、人のすることに完璧はない。
俺の友達は、天才というやつだったのか。
佐竹ハヤトには、不穏な提案を実現できる能力があったということか。
だから、デスゲームにいた、と考えるのは短絡的か?
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