118.デスゲーム運営に知り合いがいる参加者は、一人もいないとモエカは言った。
モエカは、にこやかな笑顔を俺に向ける。
「同時に。
死にたくなければ、発奮しろ、という意味もあるの。
デスゲーム運営は、粋なことをするわよね?
金剛くんも、そう思わない?」
とモエカ。
にこやかだが、どこか寒々しい気がするのは、モエカの目が笑っていないからだ。
俺がいるから、自分は殺されるんだ、と、モエカは俺に言い聞かせたいのか?
「モエカは、どうやって、デスゲーム運営の意図を知った?
デスゲーム運営に、モエカの知り合いがいるのか?」
「デスゲーム運営に知り合いがいる参加者は、一人もいないわ。
法則を知る方法は、簡単。
誰でも、法則を発見できるわ。
眼の前で起きていることを一つずつ積み上げて、共通点を見つければいいだけ。
デスゲームにコメントを入れてきた金剛くんは、見ていて、何かをつかまなかった?」
とモエカ。
「デスゲームの中に知り合いがいれば、わかるだろうが。」
と言いかけて、俺はドッジボールを思い出した。
ふーくんとラキちゃんの関係は、どんぴしゃりで、モエカと俺に当てはまる。
先にデスゲームに参加していたふーくんは、後から来たラキちゃんのことが分からなかった。
ラキちゃんは、ふーくんがふーくんだと分かっていた。
モエカは、ラキちゃんとふーくんがどんな関係だったか、目の前で見ている。
ふーくんは、ドッジボールでは亡くならなかったが、ボロボロの状態で俺の新人歓迎会に現れ、野村レオに撃たれて死んだ。
忘れていた古い知り合いがデスゲームに参加したら、お前の番がきたよ、とデスゲーム運営が告知しているようなものなのか。
モエカが、俺のことを古い知り合い枠だと考えて、忌避していた理由は分かった。
「モエカの順番が来るのを回避する方法は、ないのか?」
「ないことはないけど。
金剛くんは、私に協力してくれるの?」
とモエカは、視線だけで探ってくる。
俺は、ここがデスゲームの中だったと忘れて、頷きそうになった。
好きだったが付き合えなかった女は、鬼門だ。
付き合えなかった過去における好きだった感情が、今の俺を引っ張ろうとする。
俺の脳裏に、北白川サナとラキちゃんの姿がよぎった。
目の前にいるモエカと、思い出したラキちゃんを頭の中で比べてみる。
九割以上が、ラキちゃんに占められていく。
俺は、ラキちゃんと話がしたい。
今、一番気になるのは、ラキちゃん。
モエカは、過去の女。
俺は、頭の中を整理していく。
かつての俺の感情を思い出すと、モエカは見ているだけで懐かしくなるが、ラキちゃんを知った後では、モエカに勝ち目はない。
ラキちゃんと仲良くなりたい下心もあるが、俺には、北白川サナがいる。
過去の女モエカと親しくなって、北白川サナのご機嫌を損なうような真似は、危なくてできない。
俺には、理性がある。
目の前に、いくら焼き肉を積まれても、焼き肉に箸をつけるだけで、首が落ちるかもしれないと知っていて、箸をつけることはしない。
「止めておく。」
モエカの目の中の光が、すっと消えた。
北白川サナは、素面で危険だが、モエカは、闇堕ちリスクがある。
モエカは、ぱっと竹馬を持っていた手を離した。
モエカは、光のない目で俺を見ている。
寒々しいと感じた笑顔は、笑顔の名残りを残して凍りついている。
俺は、グラつきつつも、竹馬から落ちなかった。
竹馬のコツはつかめた。
俺は、なんとかなるだろう。
「金剛くんは協力してくれないのね。」
とモエカ。
金剛くんは?
「その言い方だと、モエカに協力してくれた人が、過去にはいたのか。
その人は、今、どうしている?」
俺は、モエカの返事を聞く前に、答えが分かっている気になっていた。
その人はいなくて、モエカはいる、それが答えではないか?
俺とモエカの共通の知り合いで思い当たるのは、一人しかいない。
「佐竹ハヤトは、モエカに協力したのか?」
モエカは、佐竹ハヤトを身代わりにして、生きているのではないか?
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