116.モエカは、『金剛くんには、ここに来てほしくなかった。』と言うが?
要点をズラされて話をされている気がする。
肝心な部分を俺には話すことができないのか?
「佐竹ハヤトは、死んだ。デスゲーム運営に命乞いした男も死んだ。
モエカは、どうなんだ?」
「死なないように頑張っているのよ。
死にたくないから。
佐竹くんも、死にたくなんかなかった。
命乞いをした人も、勿論。
誰も死にたくなんかないの。
死にたくて、デスゲームに参加している人はいない。
皆、生きたいのよ。
私、金剛くんには、来てほしくなかった。」
とモエカ。
来てほしくなかったと言われるのは、この場所がデスゲームだから、俺の身の安全を願う言葉だろうか。
モエカは、俺の身の安全が確保されないことを心配しているせいで、態度が悪いのか?
「俺も来たくなかったが、連れてこられた。
モエカがデスゲームに参加している理由を言えないなら、無理には聞かない。
タケハヤプロジェクトについて、話せることはないか?」
「佐竹くんは、金剛くんに何も話さなかったの?」
とモエカ。
「デスゲームに参加して初めて、タケハヤプロジェクトという名称を聞いた。」
確認したいんだけど、とモエカは真剣に聞いてきた。
「金剛くんは、タケハヤプロジェクトのことを知らない佐竹くんの友達で、デスゲームに参加する前から、私のことを知っていたのよね?」
とモエカ。
「モエカが佐竹ハヤトと話していたときに、佐竹ハヤトと一緒にいたから、顔を見たら、モエカだとすぐに分かった。」
はあ、とモエカは肩を落とした。
顔を見てすぐに分かった、と告げて喜ばれないことが、世の中にあるとは思わなかった。
最悪、どうしたらいいの、とモエカは、口の中で呟いた。
近いから、小さな声もよく聞こえる。
目の前に俺がいるにもかかわらず、最悪、という言葉を吐けるのか。
大学時代のモエカは、悪口を言う女ではなかった。
がっかりだ。
なんで、こんな女が良かったんだ、俺は。
俺は、脳内フォルダからモエカの思い出を掘り起こしていく。
俺の友達と話しているモエカ。
俺の親しくない誰かと話しているモエカ。
思い出したら、気が沈んだ。
俺に話しかけることがなかったから、本性が分からなかっただけか?
よくよく考えてみると。
佐竹ハヤトと話しているとき、モエカは、誰の悪口も言っていなかった。
佐竹ハヤトがいないからか?
それとも、俺相手だからか?
腹が立つから、これ以上の考察は止めておく。
デスゲーム中だ。
精神衛生上悪いことは、しない方が、長生きできるだろう。
だが、俺も、言われっぱなしで引き下がる気はない。
食い下がってやる。
「俺の何が気に食わないのか、聞かせてもらえないか?
最初から俺に対する態度が悪いのは、なぜだ?」
「金剛くんが悪いわけではなく、めぐり合わせが悪いの。」
とモエカ。
俺が悪くないと認めたなら、好都合。
俺が悪くない前提に、全力で乗っかる。
「俺が悪くないなら、俺に対する態度を変えてくれ。さすがに傷つく。」
モエカには、俺に対する態度が悪いという自覚がある。
モエカと距離をつめるチャンスだ。
モエカの自覚を利用して、反省を促し、謝罪の代わりに、俺との継続的な付き合いを約束するように持ちかけるシナリオを、俺は考えていた。
だから、モエカを責めるようなことを、わざと口にした。
「金剛くんが悪いわけではないけれど、それは、できないの。
私は、金剛くんに会いたくなかった。
会いたくなかったのは、金剛くんだけではないけれど。
とにかく、金剛くんには会いたくなかったの。
私に嫌な態度をとられたくないなら、金剛くんは、私に近づかないようにして。
金剛くんの顔を見ると、私の気分はささくれて、嫌な態度をとらざるを得ないの。」
モエカは、俺に対する態度について謝罪をする気など、かけらもなかった。
反省する気もない。
俺が近づくのが悪い、とモエカは臆面もなく言ってのける。
しまった。
間違えた。
モエカに拒否されたら、俺のデスゲーム脱出計画は、最初からつまずいてしまう。
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。