11.いつか会うとは思っていた。デスゲームが、現実だと知ったとき。その手が、声が、綺麗なままの彼女はもういないと、分かっていたはず。
デスゲームは、参加者の本質を暴き出す。
人間性のある演技は、命をかけたぶつかり合いから生まれていたのか。
男リーダーのチームの末端っぽい男女は、ギスギスしている。
この二人は、試合が始まっても、プレーで協力しないだろう。
女リーダーチームは、どうなっている?
トレードに失敗した女をカメラは映していない。
天井からボールが、二つ、同時に落ちてきた。
「試合を開始します。」
と機械音声。
女リーダーチームは、女の比率が高かった。
女リーダーのチームにいる男は、トレードを申し入れられていた男と大差がない骨格で運動し慣れていない感じ。
ドッジボールを真面目にやる気はなさそうだ。
試合の数合わせに呼ばれたから、ベンチに座っておくけど、絶対呼ぶなよ感をかもし出している
女リーダーチームの運動ができそうなメンバーは、リーダーしかいないように見える。
戦力差があり過ぎないか?
体育会系男チームに勝てるとは思えない。
ドッジボールがデスゲームというのも、分からない。
当たって死ぬようなボールなのか?
落ちてきたボールは、ゴム製のボール。
たとえゴム製ボールとはいえ、体育会系の男が投げたボールに当たると、痛いとは思う。
女リーダーチームで、ボールを当てられた男女は、痛い、痛いと言っているけど、血を流したりはしていない。
ボールは現在、二個とも、男リーダーのチームにある。
女リーダーのチームのチームメンバーは、誰一人、ボールを取ろうとしなかった。
ボールに当たったら、速やかに外野へとはけていく。
一方的な試合は、すぐ終わると思っていた。
十分足らずで、試合の流れが変わった。
女リーダーチームの内野の数が三人になってから、一人もボールに当たらなくなった。
女リーダーチームは、ボールをとらずに、躱すのに徹している。
男リーダーチームの内野をカメラが映し出した。
リーダーと、何人かが、中央に集まってボールを投げている。
トレードを申し入れられていた男は、男リーダーの近くにいるが、ボールには触っていない。
文学好きそうな女は、一人離れて、女リーダーチームの外野と内野ギリギリの内野側にいる。
文学好きそうな女は、女リーダーチームの外野に話しかけられていた。
元々の知り合いなのか、仲良く話している。
カメラは、女リーダーチームの外野を全員映し出した。
いた!
こんなところに。
女リーダーチームの外野。
最初に、外に出た二名の内の一人は、彼女だった。
話しかけている外野は、彼女じゃない方。
彼女は、他の人と馴れ合おうとはせず、話をしている人をつまらなそうに見ている。
幸先がいいのか、悪いのか。
デスゲームに突っ込まれたと分かったとき。
会えることは期待していた。
でも、最初から、元気な姿を見ることができるとは、想像していなかった。
俺は、楽して稼ごうとしてヤバい儲け話に手を出したせいで、これからデスゲームに突っ込まれる。
彼女は、何があって、デスゲームなんかに関わったんだろう。
彼女は、俺みたいに、楽をしようとして、人生をしくじるようには見えなかったのに。
彼女のしてきたことを、俺は画面越しに見てきた。
彼女が、生きてここにいる。
彼女のしてきたことは、現実で。
彼女がそうしてきたから、彼女の今がある。
彼女は、デスゲームを生き延びるために、その声と手を使ってきた。
悪いことではなく、必要なこと。
彼女が、生きるために、彼女が持ちうるものを使っただけ。
デスゲームには、己自身と貸与されたスマホしか持ち込めない。
彼女は、悪くない。
貸与されたスマホで、デスゲームを乗り切ることはできない。
デスゲームの参加者になっていなければ、彼女もしなかった。
そう思うのに。
彼女に会うのが、俺は怖い。
どんな顔をして、彼女に向き合えばいいのか、分からない。
俺が、デスゲームで見ていた彼女は、大学生だった頃と変わらない声で、犠牲者をおびき寄せていた。
その手で屠るために。
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