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109.子ども時代は簡単にできたことが、大人になると簡単ではなくなっている。終わりが見えないデスゲームは、人にとっての絶望を意味する。

俺は、豚の丸焼きを甘く見ていた。


豚の丸焼きが余裕でできたとき、俺は小学生だった。


小学生の俺の体は軽く、コンパクトだった。


家にこもらず、ランドセルを背負って通学していた小学生時代。


校庭で遊ぶ体力が俺にはあった。


今の俺とは雲泥の差だ。


早速、豚の丸焼き体勢になってみたが。


全く前に進めていない。


前に進もうとしてみて、俺は理解した。


豚の丸焼き体勢で前進するには、コツがいる。


右手右足と左手左足の動かすタイミングが合わないと、落ちる。


一番低い始まりの丸太の高さは、一メートル五十センチくらい。


丸太の上に立って、落ちた場合は、着地できる高さだが、豚の丸焼き状態だと、落ちるのは一瞬。


猫のように体勢を変える暇はない。


落ちたら、背中をしたたかに打つだろう。


落下地点からは、熱風が吹き出している。


落ちたら、燻製一直線。


どう考えても、落ちないにこしたことはない。


そういう結論を出した俺は、豚の丸焼きを一度止めて、先行している人達を観察した。


豚の丸焼きの状態で、最初の一歩につまずいているのは、俺しかいない。


俺の前にいる人は、モエカを含めて、俺が思うより早く進んでいく。


一、二、三、四、と数えて、何秒以内で、左右の手足をどのタイミングで動かしているか、数人を確認。


なんとなくコツはつかめた。


俺は、頭に血がのぼらないように、頭を下げないようにと意識しながり進み始めた。


「きゃあ。」


「うわっ。」


ガタン、ドタン。


悲鳴の後に大きな音がした。


「危ない!」


「間一髪。」


丸太だけでなく、二人の人が着地した足音がする。


目で確認はしていないけれど、落ちた丸太には、二人が豚の丸焼きでぶら下がっていたのだろう。


丸太の落ちた方向を確認すれば、一目瞭然だが、俺は確認しない。


豚の丸焼き状態で、進行方向を見ようとすると、頭を思いっきり下げることになる。


頭に血が上る体勢は、きつい。


俺は、前進できている体勢を崩したくない。


今は、落ちた丸太を見ずに、前進あるのみ。


丸太が落ちたときに、丸太の下敷きにならないようにするには、どうしたらよいか?


何も対策しないままでは、咄嗟に動けない。


落ちた丸太の重みで、骨折するか、内蔵を圧迫されて、内蔵が破裂することがないようにしたい。


今のところ、部屋の中には、肉の焼けた匂いも、血の匂いも広がらない。


まだ誰も、重傷を負っていないのだろう。


デスゲームである以上、アスレチックも全員がクリアできるゲームではない。


まだ、何かが起きるはず。


俺は、一本目の丸太を慎重に進んでいた。


メグたんの名前は、まだ呼ばれていない。


メグたんに後ろから追いつかれて、遅い!と言われる前に、次の丸太に進んでいたい。


デスゲーム運営は、あと十分くらい、メグたんの出番を遅らせてくれないだろうか。


先行している何人かの場所を、時計代わりに、顔を動かして把握するようにしているのだが。


そろそろ、メグたんの名前が呼ばれてもおかしくない距離にいる。


一本目の半分を超えるまで、あと少しのところにきた。


「ええ!」


「嘘だろ!」


悲痛な叫びの後。

二本目の丸太が落ちる音が聞こえた。


丸太の落ちる音はしたが、人の落ちる音はしていない。


気になった俺は、頭を横に動かしてみた。


二本目に落ちたのは、一番最後の丸太。


「ゴールできない!」


「終われない!」


「どうなるんだ!」


先行した人達から聞こえてくる声は、困惑と焦りと苛立ちに三分された。


最後の丸太がないから、手前でゴールとはならないのか。


先人の声からすると、ゴールできなければ、終わらないということか。


終わらない場合、今回のデスゲームはどうなる?


延々と繰り返すのか?


それとも、新しい何かが始まるのか?


いずれにしろ、体力勝負になる。


消耗した体力は戻らず、疲れは蓄積されたまま。


アスレチック分の移動をなかったことにした上で、新しい何かを始めるなら。


アスレチックで先行した人は、くたびれ損になる。


アスレチックで先行した人の体力を削るのが、デスゲーム運営の目的だった場合、目的は達成しているが。


丸太を豚の丸焼きで移動するには、体力と気力が必要だった。


デスゲーム運営が送り込んだメグたんは、最後に名前が呼ばれるのだと俺は思い込んでいた。


メグたんの名前は、今回、呼ばれないかもしれない。


丸太を豚の丸焼きで進むシーンに、美人なメグたんを使う必要が、デスゲーム運営にあるだろうか?


メグたんは、コメディアンではない。


メグたんの体力を温存して、次に備えているのか?


デスゲーム運営の思惑通りにか?


アスレチックで先行していた参加者が、アスレチック経験者なら。


黙々と頑張ってきた参加者にとって、デスゲームの終わりが見えないことは、絶望しかない。


デスゲームに参加している時間が、死に方を売り物にしている時間であると正確に認識しているのであれば、なおさら。

楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。

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