108.モエカが呼ばれた後、二人っきりになった俺とメグたんとの心の距離が縮まらない。
俺は、モエカに詳しく聞きたかったが、機械音声は、モエカの名前を呼んだ。
「佐竹くんは、探しても、もういないから。」
と言うと、モエカは、アスレチックに向かっていく。
俺は、残っていたメグたんに聞くつもりだった。
モエカのいう通りなら、俺の友達だった佐竹ハヤトは、連絡が取れなくなった一年以上前にデスゲームに参加して、既に亡くなっていることになる。
俺がデスゲームのコメントを入れる仕事を始めて、一年は経っている。
デスゲームでモエカは、見つけられた。
佐竹ハヤトは、見つけられなかった。
俺が、コメントを入れる仕事を始めたとき。
佐竹ハヤトは、既に亡くなっていたということになる。
佐竹ハヤトは、タケハヤプロジェクトというものを手掛けていたのではなかったのか?
タケハヤプロジェクトとはどんなプロジェクトか?
タケハヤプロジェクトという名称を知っているモエカとメグたん。
タケハヤプロジェクトを始めたであろう佐竹ハヤト本人がデスゲーム内にいた。
タケハヤプロジェクトとは関係のない俺がこの場にいることに、モエカは驚いていた?
違う。驚いてはいなかった。
モエカは、怯えていた。
タケハヤプロジェクトと関係ない俺が、デスゲームにいる。
それは、モエカにとって、どんな脅威になるのか?
分からないことが多すぎる。
知りたいことも、聞きたいこともきりがない。
俺は、失敗を繰り返さない。
結果を焦ったら、警戒される。
メグたんは、おーちゃんを殺せる人材として、デスゲーム運営が送り込んでいる。
メグたんのご機嫌を損なうと、俺の今後に響く。
俺は、メグたんとの距離感を慎重にはかった。
馴れ馴れしいのは、嫌われる。
俺は、メグたんが、メグたんだと知っているが、俺とメグたんは、初対面。
「はじめましてで、聞いても差し支えなければ、教えて欲しいのですが。
佐竹ハヤトは、いつからいつまで、ここにいたのかを知っていますか?」
俺は、滅多に使っていない敬語を思い出しながら、使った。
敬語が必要な人間関係は、億劫になってやめている。
まだ覚えていて良かった。
一度身につけた教養は、それなりに残るものなのか。
メグたんは、表情を動かさないまま、口だけをうごかした。
「私が教えることでもないわよね?」
とメグたん。
「おっしゃる通りです。失礼しました。」
俺は、すぐさま、質問をひっこめた。
美女に表情を変えずに話しかけられるのは、心の距離を感じるどころではなく、軽蔑された気分になる。
俺は、美女に軽蔑されることを楽しむ性癖はない。
拒絶にマイナス感情を追加されると、気分が良くない。
メグたんのせいではない、と俺は、自分に言い聞かせる。
メグたんに期待した俺が浅はかだったせい。
メグたんに反感を抱くのは、俺が、正義が勝たないデスゲームにおける余計な行動をしたせい。
俺の自業自得。
俺が至らないせいだと分かってはいるが。
ツカサのときとのメグたんの対応の違いに、イラッとする。
メグたんをメグたん呼びできるツカサが、すごいのか?
メグたんは、愛想の良い美女とは程遠い。
メグたん、と聞いたら、美人な隣のお姉さん的なものを想像するだろうが。
ツカサめ。
心温まる交流を期待していただけに、俺の心は、血がダラダラ出ている。
メグたんは、女王様でも、高嶺の花でもない。
女王様にも高嶺の花にも、男の存在は隠せない。
メグたんは、どちらでもない。
モエカを間に挟まなかったら、俺のことなど眼中になかったのが、よく分かる。
モエカがいて助かった。
モエカに声をかけた俺の判断は正しかった。
今は、眼中にない状態ではなく、虫けらかゴミを見るような目で、メグたんから見られている気がする。
思い出そう。
俺に気さくな美女なんてものは、ゲームの中にしか存在しない。
俺は、知っていたはずだ。
女に嫌われないで近づくことこそが、攻略の第一歩。
メグたんに話しかけるのは、モエカと仲良くなってから。
俺は、別に女に好かれたいから、モエカやメグたんを気にしているわけではない。
モエカとメグたんと仲良くなって、デスゲームの情報を聞き出し、有利に立ち回り、デスゲームを脱出する。
モエカやメグたんと仲良くなるのは、目的のための手段であって、目的ではない。
だから。
俺は、傷付いてなどいない。
俺の名前が呼ばれた。
「お先に失礼します。」
俺は、メグたんに会釈してアスレチックに向かう。
頭を切り替える。
豚の丸焼き体勢をするのは、いつぶりだ?
一昔以上前か。
このアスレチックを乗り切って、モエカとの距離を縮めたい。
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