10.ナンバーワンは、オンリーワン。汚れ役の配役を決めるのは、どのポジション?
ブー、ブー、とブザー音が響く。
「時間になりました。プレー開始です。
種目の説明を始めます。
種目は、ドッジボール。
チームの過半数が外野に出たら、負けです。
外野は、中に入れません。
ボールに当たって、当たったボールが地面に落ちたらアウトです。
線を踏んだら、内野も外野もアウト判定です。
外野が線を踏めば、内野から一人、外野に回ります。
ボールは二個、同時に天井から落下します。
ボールが落下する前に、外野に二人出てください。」
と機械音声。
「十人中、二人が最初から外野?多くない?」
と男リーダーのチームの男で、男リーダーと紅一点と談笑していた男が、疑問を呈している。
テニス経験者っぽい男の疑問に。
「そんなもんだ。」
と男リーダーが答えている。
テニス経験者っぽい男は、疑問を声に出したものの、深く追求する気はなかったのか、そうなんだ、と終わらせている。
機械音声を聞いてすぐ。
己のトレードを要請していた文学好きそうな女が、コートを出ようとした。
カメラは、文学好きそうな女に寄っている。
「勝手に動くなよ。外野はまだ決まってないだろ。」
さっきまで、トレード女に絡まれていた男が、文学好きそうな女を止めていた。
「味方からの安全が保証されていない私を内野に置いておきたいって、随分ね。」
文学好きそうな女は、喧嘩腰だ。
トレード女に絡まれていた男と、文学好き女は、どちらも運動が得意には見えない。
同病相憐れむんじゃなく、同族嫌悪か。
「足並みを乱すようなことを言うなよ。
女子二人が外野じゃ、こちらの攻撃に不利になるだろう。」
トレード女に絡まれていた男は、文学好きそうな女と話すときは、最初から強気だ。
「外野に女子二人が、不満なら、外野に行く女子は、私一人でいい。
私を内野に置いておきたいなら、もう一人の女子とあなたも内野にいて、あなたはもう一人の女子と、常に一緒にいなさいよ。
あの女子の安全のために使われるなんて、ごめんだわ。」
文学好きそうな女は、トレード女に絡まれていた男の相手をしたくないのか、話しながら、外野に向かおうとしている。
トレード女に絡まれていた男が、文学好きそうな女の行く手を阻んでいるため、文学好きそうな女は、外野に向かえていない。
「お前、汚れ役以外にすることがあるのかよ。
そのために選ばれたんだから、しっかりやれよ。」
トレード女に絡まれていた男は、文学好きそうな女にだけ聞かせたいのか、声量を絞って話している。
文学好きそうな女の声量は、変わらず、一定だ。
文学好きそうな女に、内緒話をする気はないらしい。
「汚れ役は、見返りがあるから、引き受ける人がいるって知らないの?
前回、あの女子のための汚れ役を引き受けた人に、あの女子は、見返りを出さなかった。
私は、あの女子がいる時点で、他にどんなメンバーがいようと同じチームに入りたくなかった。
さっきのトレードを申し入れた女の人も、女リーダーも、あの女子と同じチームになるのを嫌がっていた。」
「嫉妬は醜い。無害な女の子を相手に何を言っているんだ?」
とトレードを申し入れられた男。
「デスゲームが何か、知らないの?
デスゲームで無害っていうのは、そのへんの石ころ以下よ?」
と文学好きそうな女。
「やっかみかよ。」
と半笑いの男。
「デスゲームにおいて、他人に生かされているだけで何をすることもない人と組むメリットが、どこにあるのよ。
敵にするにしても、味方になるにしても、役に立たなきゃ、終わり。」
と文学好きそうな女。
「お前が役に立てばいいんじゃないか?」
と言う男は、半笑いのまま。
「バカなの?
あなたが、リーダーの腰巾着以上になれないのは、あの女子に好かれていないからだといい加減気づけば?
今まで、リーダーのお気に入りの女の機嫌をとってきて、女から好かれている感触が、一度でもあった?
新しく加わった男の方が、あなたより、女とリーダーの両方とうまくやっているわよね。」
この男女が揉めている間に、紅一点とテニス経験者っぽい男が、外野に出ている。
「うまくやったわね、彼。あなたの居場所は、今回限りじゃない?」
と文学好きそうな女は、冷静に話している。
トレードを申し入れられた男の顔は、無表情になっていた。
今までは、テニスをしてそうな男のポジションが、トレードを申し入れられた男のポジションだったのかもしれない。
紅一点と一緒に外野にいくポジション。
カメラが寄っているということは、この男女のやり取りは、今の見せ場なんだろう。
男女が揉めている場面が見せ場?
そもそも、ドッジボールは、デスゲームになるのか?
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