会話
図書室での姫路さんとの再会。
「あ、、」
突然の再会に何と言っていいか分からず、沈黙してしまった。
上手い言葉が出てこない。まさかこんなに早く謝罪の機会が来るとは。
というより、再び話す機会をそもそももてるとは。
どういうことなんだろう。
こないだの、この人との最後の別れ際は、変なことを言った俺に、怪訝に眉を顰める「コイツ何なんだろう」というテンションだったはず。
それが何故、次回登校時に再度会おうなんて流れになるんだろう。
「こないだはすみませんでした。ちゃんと前見てれば」
「それはもういいの。聞きたかったのはその後のことで」
「ああ」
やっぱ変な奴だと思われたよな。「すみません。あれはですね、」
言いかけた時、短い昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
まったくの不完全燃焼で俺の謝罪は遮られた。
溜息をつく彼女。
腰に手を当てて横を向きつつ、彼女は言った。
すらりとしたそのスタイルの良さに俺は一瞬釘付けになったが、慌てて目をそらす。
「私は姫路よ。あなた一年生?」
お名前知ってます。とは言えず「はい」と頷いた。「サワヤマといいます」
「サワヤマくん。放課後また図書室これる?」
え?
「あ、すいません。今日も連れがいるので図書室はちょっと…」
「…」
足早に去ろうとした姫路さんの足が止まった。
「なら夕方18時過ぎに本屋でね」
半ばフランクな、それでいて言い切る形で彼女は言い残すと去って行った。
…
姫路さんからお誘い・・・
ってことなのか・・・?これは。
しかし、なぜ俺に。
こないだ意味不明なことを言って怖がらせてしまった俺に、何故だろう。
俺が彼女を訝しがらせたのは事実、そしていま去り際、決して好意的なお誘いではなかったのも事実。
けっしてこちらに好印象を持ってる故の反応ではないと思ったほうが良い。
でもなんだろう。
恋愛系の話? うん、無いな。
即で否定。
そんな話ならわざわざ俺でなくてもいいし、むしろ他に相談すべき、他に有用なアドバイスをしてくれる同性異性が多々いるはず。
この話をアツシにすべきか?
いや… 話がまたこんがらがるかも。
悩んだ末、アツシには姫路さんと会う件を伝えるのはやめておいた。
放課後、図書室で前回同様試験対策の時間を過ごした後(姫路さんのことが気になってまったく頭に入ってこなかったが)、
図書室閉館間際に学校を出て2人自転車に乗り、T字路でアツシと別れた。
彼は西、俺は東だ。
その東側の道を300メートルほど進むと、地方にしては大きめの本屋がある。この辺で本屋といえばそこを指す。
18時前、本屋に入った。
なんかデートの待ち合わせみたいな、場違いなドギマギとした混乱感、錯覚が数瞬俺を包んだ。
阿呆か俺は。何を浮かれてるんだ。
現実的に考えて、あんな美人が何も理由なしに俺なんかに用があるわけがない。
何か理由があるはずだった。それは分かっている。
分かっているが、それでも万が一のロマンスを感じずにはいられない。それが若い男子というもの。
店内をぐるりと一回りするが、見当たらない。
と、入り口の自動ドアに女性が立っているのが見えた。
姫路さんだ。こちらを見ている。
店内に歩いてくる気配はない。右手で店外の自販機コーナーを指さした。
たしかに店の中で話すとほかの生徒もいるかもしれないし、声も聞こえるかもしれない。
自販機コーナーなら二人の会話を聞かれることはほとんどないだろう。
俺は彼女の後を追って外に出て行った。
自販機の前に二人きりとなり、彼女はいきなり本題を切り出してきた。
姫路さん「あれ、どういうこと?」
俺「え?」
くるりと振り返り、彼女は聞いてきた。
姫路さん「こないだ、自販機の前で言ってたことよ。なんで知ってるの」
声は極めて冷ややかで、彼女が俺を見る目も声と同じくらい冷たいものだった。
やっぱりそうだったか。
おそらく彼女は、俺がストーカーじゃないかと疑っているのだ。