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第十五話 ダーヴィット登場

 

 夜も更け、そろそろ子どもたちと館に戻ろうとした時、逆に館の方から来る人がいた。

 ダーヴィットだった。


「奥様、ただいま戻りましたが、……早かったでしょうかね?」


 おずおずと聞いてきたダーヴィットは、予定ではとっくに終了している交流会がまだ終わっていないことに気が付き、やっちゃった? と聞いてきた。


「まあ、大丈夫でしょ。たぶん。交流会がうんと延びちゃったのよ」


 心許(こころもと)ない私の返事に「えー……」と微妙な顔をしたダーヴィットに子どもたちが突撃した。


「ダーヴィおじさま!!」


 エーミルがそう言いながらダーヴィットに飛び付いた。

 子どもたちも口々に「おかえりなさい」「お疲れ様でした」と寄っていく。このダーヴィット大好きッ子たちめ。

 ダーヴィットとは一応主従ではあるけれど、ビルギットの旦那さんだし、ヘンリックの片腕だし、子どもたち共々もう家族のように思っている。


 子どもたちの「ダーヴィット」という声を聞いて、色めきだった集団がいた。他でもない筋肉だるまたちである。

 ダーヴィット……ダーヴィット……とさざめきが広がり、合流して「うおおおおおおお!!」という雄叫びになった。


 筋肉だるまはすぐに雄叫(おたけ)びたがる。


 ダーヴィットは自分の名を呼びながら咆哮を上げる筋肉だるまに戸惑い、やっぱり帰るのを遅らせれば良かったかと後悔しているのが丸分かりだった。

 まあ、会ってしまったものは仕方がない。諦めて欲しい。


「クソガキだと!? どこだ!?」


 よろよろしながら全力疾走してきたルーをお兄様とヘンリックが追ってきた。

 三人、どういう状況だったの?


 よろよろと私の目の前に来たルーは、ちょっと嘔吐(えず)きながら「そいつか!?」とダーヴィットを見た。


 ダーヴィットは蛇に睨まれたカエルよろしく硬直してルーを見返した。


 ルーはダーヴィットを見て、私を見て、ダーヴィットを見て、私を見て……暴言を吐いた。


「ヴゥ、お前デブ専だったのか……」


 言うに事欠いてストレート過ぎるわ!!


「失礼よ、ルー! ダーヴィットは確かに前から見ても横から見ても斜めから見ても上から見てもサイズが変わらなくて、小さな丸(頭)に大きな丸(体)、手足を四本描けば似顔絵が完成するという伝説のわがままボディの持ち主だけど、いくらなんでも言い過ぎよ!!」


 ダーヴィットはビルギットと結婚してからというもの、何を作っても美味しい美味しいと食べる姿がビルギットの性癖にクリティカルヒットしたため、食べに食べ(させられ)、幸せに肥えたのだった。


「お前が一番暴言だよ……」


 お兄様が「めっ」てしてきた。ヘンリックは「くくく」笑いしている。

 え、と思ってダーヴィットを見ると、膝? 腹? をついて泣くダーヴィットをエーミルが「よしよし」していた。


 なんかすまぬ。


「お前がダーヴィットか!!」


 そう言って筋肉だるまたちはダーヴィットを担ぎ、次のだるまたちに投げた。


 ポーンポーン。


 筋肉だるまたちはダーヴィットを投げながら罵倒したり責めたりしてるんだろうけど、興奮しすぎて、皆が口々に叫んでいるから、全部まとまって「うおおおぉぉぉぉ!!」にしか聞こえない。声量すごいな。

 ダーヴィットはなされるがまま「はわわ、はわわ」と飛んで運ばれていった。


 野郎の雄叫びと視界から消えゆくダーヴィットを見たエーミルは、目をそれはもうキラキラと輝かせた。

 あ、と思ったが遅かった。「僕も!!」と筋肉だるまたちにせがみ、続いて投げられてあっと言う間に消えていった。

 成人男性をも投げる筋肉だるまって、こいつらも人間辞めだしてるな……なんてのんきに考えて反応が遅れてしまった。


 さっき、最終手段以外に無闇矢鱈(むやみやたら)と人間様を投げちゃならねぇって、私はちゃんと(こぶし)で教えたよな?


「足りなかったのかい、あんたたち……」


 動き出した私に気が付いた筋肉だるまたちが散り散りに逃げ出した。


「やばい、お嬢がまたキレた!!」


「逃げろ!!」


「二発目は頭が潰れる!!」


「お嬢の拳は硬岩だぞ!!」


 拳骨は落とす方もダメージを食らう身を削った愛情だい。

 さすがにこれ以上は私の拳がやられる。


「三度目はないよ」


 捨て台詞……じゃなかった、威圧して終わりにしてやろう。


 走って戻ってきて、「もう一回!」とせがむエーミルを捕獲するよう護衛たちに目で指示を出し、転がるように戻ってきた(足……どこいっちゃったの???)ダーヴィットに仕事の結果報告をするよう求めた。


 ダーヴィットは、はわわ顔から真顔になった。いや、真面目。


「ご依頼の分は全て揃えました」


 キタ!!


「ただいま戻りましたわ、奥様。こちらに持ってくればよろしいの?」


 ビルギットが旅装のままダーヴィットの横に来て声をかけてきた。今回ダーヴィットの出張について行ってもらっていたのだ。

 メルネスに尽くしてくれる二人に、仕事がてら旅行してもらったのである。楽しんでくれただろうか。


 ビルギットが指差す方を見ると、館の方に荷馬車が十ほど並んでいた。


 大量ね! 腕が鳴るわ!!


「ビルギットもお疲れ様。そうしてちょうだい!」


 今回の交流会で勝利した方には領主夫人として別に褒美を出す約束をした。普通に金一封を出そうと思っていたけど、間に合ったのならコレにしよう!


「さあ、今回勝利した騎士たち!! 私からの勝利の褒美をこれから用意するわよ!!」


 そう声をかけると、騎士たちから歓声が上がった。


 何故かロベルトとフーゴが青い顔してこの場から離脱しようとして、立ちはだかるヘンリックを越えられず、肩を落として戻ってきていた。

 それを見た一部の騎士が怪訝そうな顔をしている。


 あなたたち、苦手っぽいものね。別に無理強いはしないよ?


「さあ! ダーヴィットたちに大陸各地のトワイニクスを狩ってきてもらったの!! 色々な調理で食べ比べましょう!!」


 騎士たちの声はより大きくなった。

 ん? 悲鳴? ……歓声でしょ?



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