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第十四話 義弟

お兄ちゃん視点です。


「ヴゥが丁度反抗期くらいの時、ベルツは鉱山を閉めた。傭兵家業も整って軌道に乗せようとしていたところに、天候不良で作物が打撃を受けた。世界の魔素がこんなに薄くなかったら天気なんてどうとでもなるのに、何も出来ずに歯痒(はがゆ)かったよ。賢者なんて呼ばれているけど、自慢じゃないが金は持ってない。だから、持っているところから貰おうとしたんだが、当時の金の冠を被っているヤツが欲深い愚かなヤツでさ。金もくれないしパル坊の正式な救援要請もつっぱねやがった。ズブズブの仲の領主のところは必要のない救援したのに。いくらあいつら(勇者と聖女)の子孫だとしても、自分の欲のことしか考えてないヤツじゃダメじゃんと思って、やっちゃおうと思ったんだけどさ」


 もうどこから突っ込んで聞けば良いのか分からないだろうヘンリックは、賢明にも口を挟むことを放棄して、眼だけで続きを促していた。ルーヴのこのテンションに怯まないなんてさすがだ。


「少しだけ、先見(さきみ)の力があってさ。自分の好きな時には使えないからそんな力があるのも忘れてたんだけど、そいつをやろうとした瞬間にパッと見えたんだよ、ヴゥやベルツの皆が幸せそうに笑っている姿が。……ベルツは苦境だけれども、こいつをやらなくても、自分たちの力で乗り越えられると示していて、だったら、馬鹿の相手が馬鹿馬鹿しくなって。馬鹿の息子は馬鹿そうじゃなかったから早く継げと発破をかけるだけにしたんだ」


 ヘンリックは溜め息をかみ殺していた。

 享楽的で政治の能力が無いのに矜持だけは高く選民意識の塊だった先王の時代は、国民が苦しみ、隣国ともよく揉め、混乱の時代だった。しかし、傀儡の王は貴族には都合が良く、王太子への早期譲位は蹴られ続けていた。遠い田舎のベルツにさえ届くほどに、先王の治世は悪い方で行き届いていた。

 それが、十年ほど前、突然現王は父親である先王を幽閉し、あっと言う間に即位した。国が混乱するかと思われたが、現王は次々に施策を実現し、国内の混乱を治め、貴族を黙らせた。


「……当時は王太子が耐えかねて行動したのかと思っていたが。理由の一端にベルツが絡んでいたとは」


 うん、別に知りたくもなかったよね。

 あの頃のルーヴは超絶怒っていたよ。


「それでベルツに戻ったら、……ヴゥのヤツ、一丁前に眼をハートにして優男(やさおとこ)を追いかけ回してた。先見で見たヴゥはコイツとくっついて幸せそうに笑ってたんか……と思って黙って見守っていたのに。それを、あの、クソガキは!!」


 麦酒を飲み干して空っぽになった杯を地面に叩くように置き、ルーヴはヘンリックを睨んだ。


「……借金のカタなんて、メルネスも滅ぼしてやろうかと思ったんだが、ヴゥが生き生きと暮らしてたから、もしかして、ヴゥはここで幸せに笑って生きて……」


 急に俯いて口を閉じたルーヴを覗いて、ヘンリックは息を吐いた。

 ルーヴは座ったまま(こうべ)を垂れて器用に眠っていた。


 絡んで寝る。

 酒癖悪いんだよな……。


「ここで寝るか。随分酒に弱いんだな?」


 ヘンリックが話しかけてきた。まあ、最初から気が付かれていたが、聞かせてくれたのだろう。


「お疲れが出たのでしょう。若く見えますが、ご高齢なので」


「高齢でくくるか」


 忍び笑いをしたヘンリックに、持っていた新しい杯を渡し、ルーヴを挟んで座った。「少しぬるくなってしまいましたかね」と呟きながら自分も麦酒に口をつける。

 ヘンリックも黙って口をつけた。


「いや、負けましたね。メルネスはさすがの強さだ。ラーシュの件がなくても、あなたに見つかった以上、瞬殺だったでしょう」


 そう言ってメルネスを讃えた。元々、強さで比べたら敵うはずがない。傭兵は依頼を完遂することが目的であり、その過程で必要があるから戦うのである。戦いが存在意義の騎士と比べるまでもない。

 だが、集団と集団、ルールがあっての話であれば勝機があると判断した。辺境伯と遭遇しないというミッションさえクリア出来れば、十倍の騎士相手でも負けないと判断した。


「……もし、敵が自軍の十倍だと正確に分かっていれば、我々は戦をしない。逃亡と罵られようが何を言われようが、倒れればその屍を踏み越えて敵は国を蹂躙する。ならば、相手を叩ける状況になるまで戦端は開かない。そういった目的意識は傭兵と似通っているが、やはり根本が違ったな」


 ……なんだ? 『騎士万歳』とでも言いたいのか? 今更、わざわざ?

 疑問が顔に出ていたのか、ヘンリックが続けた。


「うむ、ダーヴィットがいないと、補足してくれる奴がいなくて不便だな。……今の話は、騎士と傭兵の『適材適所』を極めていけば、戦で正面からぶつかる前にもっと有利、もっと言えば戦う前に勝てるだろうし、ベルツは貴殿がいれば安泰だなという話に持って行きたかったのだが、伝わっただろうか?」


「どこがだよ」


 素でつっこんでしまったのは勘弁してほしい。

 何回かメルネス領を訪れる度、ヘンリックの側にはダーヴィットが控えており、事務的なことや周囲との調整を担っているのを目にはしていた。その姿を「ふうん」と思って見ていたのだが、今、身をもって納得した。


 この人、通訳(ダーヴィット)が必要だ。


 まあ、ベルツが負けた以上、ダーヴィットを公式でボコボコにすることは出来ないし、メルネスにはダーヴィットが必要で、シーヴがもう納得して幸せに生きていることさえベルツが分かればいいんだ。


 本当はもうルーヴだって分かっているんだろう。

 でも、育てた娘をとられた父親のような気持ちで駄々をこねているんだろうな。

 女性だけど。


 そろそろルーヴを部屋に戻すか。抱えてやれればいいけど、身長同じくらいだから無理。肩を叩いて起こそうとした時、宴会場がドッと沸いた。


 また何かおっ(ぱじ)めたかと溜め息が出そうになって目を凝らしたら、そこには今までいなかった人物がいた。


 ダーヴィットだった。


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