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第十三話 ルーヴ、絡む

お兄ちゃん視点です。

 

「いかがか?」


 微妙な勝利を得たメルネスと微妙な負け方をしたベルツだが、ラーシュが無事だったから「まあいいか!」と笑い飛ばし、丘の上で町の皆と一緒に呑めや歌えやの大宴会となっていた。


 ルーヴがその輪から少し離れたところで一息ついていたのは視界に入っていた。皆から「賢者様賢者様」ともみくちゃにされたので疲れたのだろう。

 こちら(ベルツ)は『ルーヴ』に慣れたものだが、既に交流会でルーヴに触れていたメルネスの騎士たちも、ルーヴを異端視しなかった。

 人間は未知のものや異端に対して忌避するものだが、大した精神力だと思う。

 ……メルネスにも人外っぽいのがいるから慣れているのかもしれない。義弟だけど。


 その義弟(ヘンリック)が杯を持ってルーヴに近付いていった。


 ルーヴはその麦酒を苦笑いで受け取って、差し出した主に横に座るように促した。

 何か話をするのだろう。見つかった時の言い訳に、おかわりの杯を両手に持って、二人の後ろの木陰から伺うことにした。


「不敬ですかね?」


「いいや。行軍や訓練時は私も皆と同じ飯を食い同じところで眠る。共に座るぐらいで不敬など言わん」


 ルーヴの横に座り、ヘンリックが麦酒を呷り、息を吐いて言った。


「改めて、礼を言う。我が息子を助けてくれて感謝する。皆には『放浪の賢者』様は偶々(たまたま)メルネスにいたが、またすぐに旅立たれたと徹底させた」


 うん、その徹底する光景が異常過ぎて、いっそ感動すら覚えたよ。


 集めた騎士たちを前に、「いいか、ラーシュが助かったのは奇跡であり、奇跡を授けてくださった『放浪の賢者』様は次の地へ旅立たれた。誰に何を聞かれてもそう言え。異論がある者はかかってこい」と、ヘンリックがそう言うと、「異論はありませんがよろしくお願いします!」と元気よく騎士たちが応え、剣を抜いてヘンリックに斬りかかったのだ。

 そして『ぺいっ』と打ち返されてまとめて弾き飛ばされていた。弾き飛んだヤツらの嬉しそうな顔に、メルネスはヤバいと本気で思った。


「ん。どうもです。……メルネス卿が話の分かる方で本当に良かった。欲を出されたら、ヴゥたちごと旅立たなくちゃならなかったからね」


 もしも利用しようとしたら、シーヴと子どもたちごとメルネスから連れて行くと言ったルーヴを、ヘンリックは咎めなかった。『放浪の賢者』は、それを簡単に成し遂げることを知っているようだ。

 きっとヘンリックが分からないのは、シーヴに対するルーヴの肩入れ具合だろう。


 メルネス家は辺境を守る要の地であり、代々の領主は王家と深い繋がりがある。現王はヘンリックと学生時代の同級生でもあることだし、()()()()のことも辺境伯として一般市民よりも理解していそうだ。


「しかし、なぜ、ベルツにそんなに長く?」


 ヘンリックは素朴に疑問をぶつけた。


「別に、特に、理由はないかな。ただ、昔の残滓が少しベルツにはあって、懐かしんだのかもしれない。……何十年に一回くらい、ちょっともうどうでも良くなる時期があるんだ。飽きちゃってさ。そんな時、ベルツを通りがかったら鉱山がもうすぐ枯れるから傭兵家業にまた戻るって話になってて。パル坊の剣帯には相変わらず思い付きで授けた言葉が刺繍されていて、それを見て、ちょっとここにいても良いかなって思った。鉱山を()たら、本当にあと少しで空っぽになるのが分かったから、住んでいる人が飢えないようになるまで、ほんの少しここに混ざっても良いかなって」


「パル坊?」


「ああ、ベルツ男爵だよ。結婚したばかりで、クラ坊が生まれるところだったかな」


 クラ坊はやめれ。

 父上のパル坊も笑ってしまうからやめて欲しいと常々思っている。娘が真似して舌っ足らずに「ぱう」と父上を呼んでしまっている。……本人は顔面が溶融するほど喜んでいるから訂正していないが、「ぱう」って。


 ヘンリックは、クラ坊は誰だ? という顔をして、義兄()のことかと当たりをつけたようだった。


「パル坊の側はさ、なんでかいつも災難ばかりなんだけど、あんまりガツガツしてなくて、なんか居心地が良くてさ。少ししてシーヴが生まれたんだけど、ブリちゃんが病気になっちゃって。皆、天手古舞(てんてこま)いでシーヴは放置気味だったようなんだ」


 ブリちゃんもやめてほしい。……母上は表面上ツンツンしているけど、ルーヴと仲良しなんだよなぁ。

 ヘンリックは話の流れからまだ会ったことのない義母のことだろうかと、気付いてくれたようだった。


「ある日、ヴゥが部屋を抜け出して誰にも気付かれることなく鉱山にいたんだ。さっきのラー坊みたく鉱夫たちにパスされて、ヴゥを受け止めた時、あの子目を回して吐いちゃって、可愛かったぁ~」


 愛おしそうに話をするルーヴに、ヘンリックは「そうか」としか応えていなかった。きっとヘンリックの中のルーヴのラベリングがめまぐるしく変わっていき、感情が追いついていないんだろうなぁと想像に難くない。


 妻との距離が近い抹殺対象

 ↓

 女性の定義とは何だったか

 ↓

 放浪の賢者

 ↓

 息子の恩人

 ↓

 ちょっとアレな人


 ああ、ヘンリックの気持ちが手に取るように分かる。もはやルーヴが誰を『坊』や『ちゃん』呼びしてもどうでも良くて、誰のことだか分かれば良くなっているのだろう。世界最高齢なのは間違いない人から見たら、皆、鼻垂れ坊主だろう、と。


「鉱夫なんて皆ゴリゴリ筋肉だるまだろう? ヴゥはその中で筋肉に囲まれて筋肉を見上げて育ったから、ゴツいのは食傷気味で、細身の自分に「ルールー」言ってよく懐いてさ。領地も家もゴタゴタしていて寂しかったんだろうよ」


 ゴタゴタ、あたりからルーヴの眼から剣呑な光が漏れ出した。

 ……絡み酒なんだよなぁ。


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