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第十二話 勝負あり

 

 丘の上が騒がしくなった。

 きっとこちらの異変とラーシュがいないことに気が付いてのことだろう。

 案の定、お兄様が指差す方を確認する丘の上の騎士たちと筋肉だるまたち。「ロープだ」と騒がしくなり、ヘンリックたちがいる場所の周囲に何本もロープが垂らされ、命綱をつけた筋肉だるまたちがするすると降りてきた。互い違いの高さに止まり、足場に鉄杭を打ち込んで、身体を安定させる。


 ……なんで? ヘンリックにロープを下ろして引き上げれば良くない? なんであんたたちが降りてきたの?


「あいつら」


 お兄様が呆れたように呟いた。


 何をする気かと見ていると、出っ張りの一番近くに降りてきた筋肉だるまがヘンリックと何か話し、ヘンリックが頷くと、ラーシュを渡した。


 え、と思う間もなく。

 ポーンポーンと筋肉だるまがラーシュを投げ始めた。キャッチしては斜め上のだるまへ、キャッチしてはポーンと。


 ひぃっ!!

 や、やめっ……!!!!


 叫ぶ間もなく、ラーシュは丘の上に消えていった。


 それを見届けた筋肉だるまたちは、するするとロープを登り丘の上へ。

 ヘンリックは残されたロープを掴み鉄杭を足場にしながら、自力で丘の上に到達していた。


 頭が理解する間もなく、あっと言う間のことだった。


「あー……大丈夫か? ヴゥ?」


「腰が、抜けたわ。なんなの、あれ」


 ルー曰く、山狩りをする時に崖を直登出来る方が作戦の幅が広がるので、傭兵たちに練習させたらオモシロがって極めだしたとのこと。今では崖は迂回するものではなく真っ直ぐ進むものになっているらしい。ああやって荷物も運び、慣れたものだという。


 荷物て。

 助けてもらったけど……後で覚えておけよ。


 抜けた腰を叱咤して、丘の上に向かうと、ヘンリックがラーシュを抱っこして向かって来た。

 後ろには憔悴したお父様と泣きはらしたアーネとエーミルもいた。更に侍女と護衛たちも固い顔をしてついてきた。


 もうそれだけで分かった。

 お父様が三人といて、侍女たちは遠慮して少し離れたところにいて、お父様たちが少し目を離した隙に、動き回るラーシュが脱走したと。


 泣きながら「まぁま!!」と抱っこをせがむラーシュをヘンリックに任せたまま、鼻水まみれのアーネとエーミルを抱き締めた。


「ご、ごめんなさい。わたしがラーシュの手をはなしたから」


 泣きながら謝るアーネの頭を撫でながら聞いた。


「わざと?」


「ちがう!!」


「わざとでないなら、いいの。もしわざとなら、なんでそうしたのかお話しして欲しかったのよ。わざとでないなら、もういいの。アーネ、あなたは悪くない。いつもラーシュのこと面倒見てくれてありがとうね。……怖かったわね」


 アーネは「うぐぐぐぐ」と何かを耐えながら、耐えきれず崩壊して号泣した。


「こわかった! ラーシュがいなくなって、みんなこわいかおをして、こわかった!!」


 つられて泣くエーミルともども抱き締める。


「一緒に探してくれたのね。二人はエラい子ね。私の大切な子」


 大号泣の二人を抱き締めていると、おずおずとお父様が頭を下げた。


「すまない、シーヴ。私が一緒にいながら目を離してしまったんだ。アーネもエーミルも侍女たちも悪くない。すべて私の責任だ。すまなかった」


 お父様は、いつも、何があっても責任から逃げない。真っ向から受けて立つ。……能力が伴っていないことが多いんだけど。まあ、だからベルツはいつも貧乏なんだ。

 けれども、お父様のまわりにはいつも人がいて、共に苦しみに添ってくれる人たちがいる。人柄だけで領主をしているようなお父様だけど、その分、腹黒いお兄様がフォローに回っているので、今後も心配していない。

 嘘。お母様に愛想を尽かされないかだけは心配。


 お父様も責めることは出来ない。

 ヘンリックを見ると同調してくれた。走り回る赤子が心配なら、父なり母なりが側にいるべきだったのだ。成り行きとはいえ、一緒になって交流会に参加して、途中から面白がって子どもたちから意識を離した私たちに責任はある。


「ラーシュが無事だったのはルーのおかげ。心から感謝します。ありがとう、ルー」


「感謝する」


 私が言うとヘンリックもルーに頭を下げてくれた。


「ん。まあ、こちらが意地になったのもあるし、可愛いヴゥの子だし。でも、いつもじゃない。それだけは覚えておいてね」


「うん」


 奇跡はなくて当たり前だ。

 もう子どもたちから目を離さない。


 泣いて叫びながら、びちびち跳ねて逃れようとする魚のようにヘンリックの腕で暴れているラーシュを抱っこしようと手を伸ばす。


 生きてる。生きてる。

 良かった……ラーシュ。


「まぁま!!」


 ヘンリックの腕から逃れ、飛び込むようにやって来たラーシュを受け止めた。


 ぱりんぱりん。


「あ」


「あ」


「あ」


 ロベルトとルーと声が被った。ラーシュを抱っこした瞬間、蹴りが私の胸に、頭突きが額にクリーンヒットしたのだ。


 私の皿は二枚同時に綺麗に割れた。


 痛かったのか、更にギャン泣きするラーシュ。

 おでこが赤くなっているが血は出ていない。後でこぶになりそうだ。


 さておき、誰が割ったのかは関係ない。ベルツの大将たる私の皿が二枚とも割れたのだ。

 私はラーシュをあやしながら、「あー……メルネスの勝ちぃ~」と力なく笑って宣言したのだった。


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