第一話 ベルツが来た!
お読みになる前に、あらすじをご確認ください。
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『外面イイ子ひとり我慢属性の七歳児とデレ未覚醒ツンツン寂しがり屋双子の五歳児を持つ、無口で仕事人間な十歳上の辺境伯に嫁入りした私の日常生活を誰か聞いてください』のその後のお話です。読んでいないとちんぷんかんぷんです。是非↑からお読みください。
シーヴが結婚して六年後くらい。
↑の最終話から一年ちょっと後くらいです。
よろしくお願いいたします。
m(_ _)m
誤字脱字を訂正いたしました。
誤字報告、ありがとうございます。
「ルー!!」
「ヴゥ!!」
私が駆け足でルーに飛び付くと、その勢いのままルーは『ひょい』っと私を抱き上げた。
「はっはーっ!! 人妻になっても相変わらずのじゃじゃ馬、元気そうで何よりだ!! それに声も!!」
「ルーも変わらないね? 元気だった!? 声なんて昔の話よ!」
ルーとは私が十八で辺境伯に嫁いで以来だから、実に六年ぶりの再会だ。手紙はたまにやりとりしていたけど、私は定期的に妊娠して領地を離れられなかったし、ベルツ領も立て直しやら傭兵業が軌道に乗って皆忙しくしていたのだ。
お互いがようやく落ち着いたということで、本日はベルツ領の面々が遥々メルネス領までやって来ての交流会なのである。
私がルーに抱っこされていると、後ろからヘンリックに引き抜かれ、これまた『ひょい』っと抱き上げられた。赤ちゃんか。
「おお……噂に違わず溺愛されとる」
ルーが目を丸くして、無表情で威嚇しているヘンリックと私を交互で見て言った。
やめてよ、噂ってなんだよ。
ベルツ領で一体何を言われてるってのよ?
「抱き付くな」
ヘンリックから私が説教された。
ええ……? なんでぇ???
「ルーだよ?」
心から謎だ。ルーだよ?
「シーヴ……お父様もいるよ」
ヘンリックが話を続けるよりも先に、ルーの後ろからお父様がしょぼくれて前に出てきた。
あ、ごめん、いたの? そりゃいるわよね、領主だもん。
「僕もいるよ」
お父様の後ろから更にお兄様が出てきた。
「お兄様!? お義姉様たちもご一緒?」
お兄様はお父様に代わって外回り営業を担当しているので、これまでもメルネスを訪れてくれていた。五歳離れた兄はいい歳なのにふらふらと独身だったが、昨年ようやっと縁あって結婚し、姪っ子のシュステナが生まれている。まだ義姉にも姪にも会ったことがないのだ。来るとは聞いていなかったが、お兄様の後ろから出てくることを期待して覗く。ってか、なんで一列でいたの?
「残念。来たがっていたけれど、つわりがひどくてね。年子になるんだ。シュステナは母親ベッタリだしね。今回はお留守番」
「まあ! おめでとうございます」
甥っ子か姪っ子が増えるなんて、なんてめでたいのかしら! 贈り物を用意しなくては!
「積もる話はまた後で。父上……」
お兄様が領主のお父様に挨拶を引き継ごうとしたのに、お父様はこちらに向かってくる子どもたちを見て、「ラーシュが歩いてる……おお、おお」とぷるぷるしてたので、次期領主のお兄様がそのまま挨拶を続けた。
ごめん、皆で待ってたのに私が走ってきちゃったから。
「ヘンリック殿、こちらが我がベルツ傭兵団の団長、ルーヴです。妹とは兄弟というか親子というか双子のような存在なので、距離感に驚かれるかもしれませんが家族のようなものなので、そういうものだと思ってご容赦を」
「無理だな」
「即答かよ」
ヘンリックが言うとルーが笑いながら突っ込んだ。
「なぜ名前まで似ているんだ?」
ヘンリックが無表情で名前にまで難癖つけてきた。
「ああ、うちの土地にはシーヴとかルーヴとか『ヴ』がつく名前はよくあるのです。なんでかは分かりませんけれど。シーヴの名は祖父のギーヴからもらいましたが」
お兄様がサラリと答えてくれたけど、ヘンリックは納得がいかない模様。お兄様もクライヴって名前なんだけど、そこは端折るわけ?
やめて、ヘンリックが次の子は『ヴ』をつけるかとか、ブツブツ言い出したから!
「改めまして、ルーヴです。ベルツで傭兵どものとりまとめをしております。見てのとおり平民ですので、礼儀などはご容赦いただけると助かります」
ルーが手を差し出すと、ヘンリックが私を片手で抱っこしたままガシッとルーと握手した。そろそろ私を降ろしてほしい。
「シーヴの夫のヘンリックだ。この度は遥々ご足労いただき感謝する。……是非、我が妻が自然に自慢するベルツの実力を見せて欲しい」
言葉に威圧とトゲがあるなぁ。自己紹介『メルネス領主』じゃないんかい。夫と妻を強調しすぎだろ。
「わあ……ヴゥ、話を盛り盛りにしてんなぁ。まあ、ご期待に添えるよう、我々一同全力を尽くしましょう」
ルーが屈託なく笑ったけど、私は久しぶりに皆に会えて嬉しいやらこんなことになって申し訳ないやら、複雑だった。
なぜなら、今回のメルネスとベルツの『交流会』は、私の不用意な一言が発端だったからである。