D-1日目
男の名は宮脇平四郎
神社の脇に住んでいるという極ふつーな純和風の名前と、男の子あるあるの忍者ごっこが大好きな村の子供で、両親は存命という戦国の村では珍しい家族構成だが、平四郎の名の通り4男なので、先の戦は2番目の兄が赴き戦死、その前の戦は兄が戦死しと、戦を怖がるごく普通な戦国百姓一家の子供だ。
摂津国は田舎である。なのにその片田舎に堺という超大型大都会があり、たまに買い出しや売り込みに堺に行ってたりする摂津の人間は、カッコをつけることが大好きだ。
大阪人は実利を取るイメージがあるが、戦国時代のここらへんの農村の豪族やら農民やらは、都会かぶれでカッコつけを知った、そんな嫌いになれないカッコつけの土民たちばっかりだ。
他の地方の土民たちはお風呂もあまに入らないけれど、堺に作物を卸す摂津の農民はカッコつけを好きなので結構きれいなものだ。お風呂も入るし、他所行き服も持っている。 堺で甘く見られないためにと、農民の家全軒に家名があるのだ。まあ、宮の脇の家は宮脇家、寺の前は寺前家、村外れに住んでる家臣は島流しで有名な隠岐をつけている。
「そういえばお前んちってなんで星野なの?」
植木を飛び越えながら左衛門に声をかける平八郎、
「なんかね-、家って領主一家の曆係だから、ウチの、親父は毎日朝にお城に行って今日が何月何日か教えながら、朝起こす係だったんだよね」
「で?昨日オッサンなんて言ってた?お前もその役目で決まり?うちなんか神社から毎朝水汲みして砦に持ってくかかりだぜ、やってらんねーよな、
井戸あるんだから使えってんだよ」
「ま、そんな逃げてばっかりいてもいつか捕まるぜ」
「でもお前さ、お産だぜ?水いっぱい汲まされるに決まってるよ、お産の日なんて何十回汲まされるか分かったもんじゃねーし」
畑の反対側にいた中西が二人を見つけ、声をかけてきた
「お前ら、今朝は登城してないだろう?御屋形様がお産が終わってから来なかったの気付いたら怒られるぞ」
「でも新八っちゃん、俺昨日行ったけど役目頂いてないし∼」
そうなのだ、うちの村は毎朝砦の中で朝礼をやっているのだが、役目をまだ決めていないから二人はまだ行ってないだけであって、村の掟では家毎に成人男性一人は朝礼は必須参加なのだった。
「隠岐に伝言頼まれてな、二人とも明日は朝礼参加だぞ」
「「はーい」」
中西が自分の畑に戻ると、手裏剣遊びを始める二人であった。