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01.今更の記憶


 頭に衝撃が走る。


 比喩ではなく文字通りの意味で、だ。街中を呑気に歩いてたら後ろからやられたらしい。没落したとは言えかつては王国七門に数えられたモンダロス家の嫡男だ。俺自体に恨みはなくても家名にある奴らなんて足の指を足しても数えきれない程いるだろう。


 ひどくゆっくりと地面に倒れていく。飛び散った血もまだ地面に着いていない。


 走馬灯と言うやつだろうか。


 待ってました!と言わんばかりに21年の短い人生の記憶がフラッシュバックする。


 これはついさっきの記憶だ。酒場に出向いたら騎士学校の同期共がピカピカの鎧を来て自尊心に裏打ちされたピカピカの笑顔で厳しい訓練生時代を語り合っていた。


 なんて胸糞の悪い。死ぬ前くらいもっとマシな記憶を見せてくれ。


 次は4年前の記憶だ。騎士学校を退学になり僅かな荷物だけを持って学校を去る姿。あまりにも惨め。


 次は騎士学校に入学する時の記憶だ。今は亡き父は首席合格のお前を誇りに思うと熱く語り、妹は涙を浮かべながらも俺を送り出してくれた。


 この頃は良かったな、と感傷に浸る間も無く記憶は次々に再生されていった。


 酷い雨の中、馬車の残骸に埋もれ、ただ泣くしか出来ない俺の姿。泥と血の匂い。

 これは9年前の記憶だ。俺が12歳の頃の物。馬車の事故に遭った時の物。幼少の記憶など無くさずとも覚えていない人間だって多いだろう。それはまぁいい。

 この時、記憶と一緒に母も亡くしたのだ。


 悲しかった。


 俺が覚えているのは冷たく青白い母の死顔だけなのだ。


 そして次の記憶を見て涙が出そうになった。走馬灯は無くしていたはずの記憶まで見せてくれたのだ。


 屋敷の庭で父と稽古をしている6歳の頃の俺だ。覚えていないがこの頃の俺は嫌に必死になって訓練をしていたと聞く。

 父の顔にはまだ余裕の表情が浮かび、汗だくになりながら迫る俺を片手であやしていた。

 近くの木陰には母がまだ赤ん坊の妹を胸に抱きながら微笑ましくこちらを見守っていた。

 幸せな家族の一幕がそこにあった。


 場面が切り替わる。


 こちらを見下ろす父と母の顔。視界の端に小さな手が映る。赤ん坊だった俺の手だろう。その記憶は幸せに満ちており自分は両親から望まれ生を受けたのだと強く感じることができた。


 さらに次の記憶が浮かんでくる。


 …………………………次の記憶?

 これ以上何を遡ると言うのか?そんな考えを他所に記憶は次々と通り過ぎていった。




 それは日本という国でごくごく平凡に暮らす男の人生だった。




 思い出したわ。


 そういえば俺、転生者だったわ。




◆ ◆ ◆


 気が付くとベットの上だった。

 目を開けた俺に気付き看護師が大慌てで部屋を出ていった後、医者と見られる人間を連れてきた。彼は俺に何か言っているようであったが、今はそんなことどうでもいい。


 走馬灯が見せた記憶のことで頭はいっぱいだった。


 俺はべスター・モンダロスに転生した工藤和久。または、異世界人である工藤和久の記憶を持ったべスター・モンダロスだ。

 ここは工藤和久がプレイしていた『マカダミアン・ファンタジー~悠久の煌めき~』というゲームの世界だ。

 世界観はよくある剣と魔法が入り乱れる中世ファンタジー、の中に奇天烈な要素がふんだんに含まれた所謂クソゲーに分類されるもの。最終決戦ではそれまでの世界観を完全無視し、突如湧いた銀河大将軍シルバーウルフ率いる宇宙艦隊との弾幕シューティングが始まる。それまではありがちはコマンドRPGだったにも関わらずだ。しかもこの弾幕シューティングがあまりの高難易度で当時の俺はクリアできず、ネットで出回っていた残機無限バグを使ってなんとかクリアしたのを思い出す。


 少し逸れたが、問題となるのはベスター・モンダロスがこのゲームにおいてどんな立場の人間であるか、だ。


 ベスターは主人公ラケシュと騎士学校での同期であり、学園編の敵として出てくる。

 ラケシュの敵対貴族に有る事無い事唆されたベスターはラケシュを襲撃するも撃退され、遂には騎士学校を追われることとなるのだ。


 だがベスターの出番はここで終わらない。なんと彼は宇宙大将軍シルバーウルフとなって再び立ちはだかるのだ。

 これは隠し要素をクリアすることで手に入るシークレットファイルを読む事で判明する。


 弾幕シューティングで負けたときBAD ENDとしてその後の世界の様子が語られるのだが碌なもんじゃなかった。事故で記憶を失う前の俺は必死に鍛錬を積み、メインキャラとの友好を深め、ラスボス化回避を目指していたのだ。

 だというのに記憶を無くしてからは見事原作通りのベスターを演じ騎士学校を退学となっている。


 これはマズい。


 未だ変わらずシルバーウルフロードのど真ん中を歩いている証左だ。


 焦るな、焦るな。時間はまだある。

 俺が倒される日(ラストバトル)は王国歴567年のことだ。今は562年。5年しかないがどうとでもなるだろう。


 王国に対して偽りの憎しみを植え付けられた原作のベスターではないのだ。

 何より俺自身がシルバーウルフとなることを拒絶している。

 全てを思い出した今、回避は余裕なはずだ。



「君、聞いているのかい?」


 医者に話しかけられていたことをすっかり忘れていた。


「あっ…すみ、ません。ま、まだ意識がは、ぼんやり…していて…」


 変だな?呂律が回らないぞ。やけに身体が重いことにも今更ながら気付く。


「良いんだ良いんだ。怪我の方はとっくに完治してるんだがやはり頭というのは良くない。無理しなくていい」


「ありが…とう、ございます。で、でも俺…」


「ノーノーノー安静にしてるんだ。何せ君は3年も意識不明で寝込んでいたんだ。会話が出来るだけでも大したもんさ」


 は?3年?


 今3年って言ったか?


「じ、じゃあ…今は、王国、歴…」


「王国歴565年。春の明星6の日だ」


 視界が歪み、ジワジワと真っ黒に染まりつつあった。

 吐き気を催すほどの頭痛が襲う。


「あと、2ね、ん…!?」


 言い終わるが早いか俺は意識を手放した。



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