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女神でも聖女でもないのに、何故か崇拝対象になりました ~変人貴公子の狂的な執着愛~  作者: 三羽高明


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カボチャの……?(1/1)

 大通りはかなり混雑していた。


 あっちを見てもこっちを見ても着飾った男女ばかり。きっと皆ニューゲート城の舞踏会に参加する人たちだろう。


 車道も馬車でいっぱいになっている。しかもひどい渋滞を起こしていて、一向に前に進む気配がない。乗客たちの中には焦れてしまったのかその場で馬車を降りる者もいた。


 乗合馬車を捕まえてニューゲート城まで行こうと思っていた私は途方に暮れる。こんな状態じゃ歩いていく方が早そうだ。仕方なく夜会服に身を包んだ男女の群れに私も混じることにした。


 けれど、歩道も負けず劣らず混み合っていて、少し前に進むだけでも一苦労だった。何度も足を踏まれ肘で突かれ私はよろめく。でも、転んだりしたらそれこそ起き上がれなくなりそうな混みっぷりなので我慢して立っていた。


「今年も相変わらず人が多いのねえ」

「本当に。去年なんて着いたと思ったらもう舞踏会が終わる時間だったわよ」


 隣から奥様方の世間話が聞こえてくる。到着したら舞踏会が終わっていた? どうしよう……。そんなことになったらすごく困るんだけど!


 焦っていると目の前にいた一団が急に大通りをそれ、脇道に入っていくのが見えた。もしかして抜け道があるの?


 見たところ、混んでいる大通りに対して小道の方はあまり人気がなさそうだ。よし、それならと、私は人波から抜け出して裏路地に転がり込んだ。


 ムーランさんのお店も路地裏にあるから知ってはいたけど、裏通りはやっぱり大通りと違ってちょっと薄暗いし道も複雑に枝分かれしている。


 でもこの城下町は治安もいいし不審者が出たりする心配はあんまりなさそうだ。遠くにはニューゲート家の庭にある建物の屋根みたいなものも見えているし、それを目印にすればきっと目的地まで行けるに違いない。


 そんな風に考えて、私は意気揚々とニューゲート城があると思われる方角へと足を向けた。


 でも、すぐにそれが甘い考えだったと知ることになる。


 それから数時間経っても私はまだ路地裏をウロウロしていたんだ。


 裏通りは私の想像以上に入り組んでいた。一度通った道を三回も四回もまた通行する羽目になったり、行き止まりに出くわしたり……まるで迷路だ。


 こんなことなら大通りを歩いた方がよかったのかもしれないと後悔したけど、戻る道すらも分からない。


「おお! 女神様じゃ!」


 焦りと疲れで段々とイライラしてきた私は、不意に声をかけられて飛び上がりそうになった。


 そこにいたのは、しわくちゃの顔がカボチャを連想させる老人だった。それに歯はネズミみたいに出っ張っている。何となくユーモラスな顔立ちに、ささくれ立っていた気分が少しだけ和むのを感じた。


「ありがたや、ありがたや……」


 指を組んでおじいさんは祈りの言葉を唱え始めた。この辺りの人かしら? と疑問に思った私は、すぐにこのおじいさんに道案内をしてもらうことを思いついた。


「ニューゲート城への道を教えて欲しい? それくらいお安いご用ですじゃ」


 私の頼みにおじいさんは快く頷くと、老体とは思えない身のこなしで素早く塀の上に上がった。


「お、おじいさん!?」

 

 まさかの行動に呆気にとられていると、おじいさんは何食わぬ顔で私を手招きする。


「女神様、早く来るんじゃ! 舞踏会が終わってしまうぞ!」


 そんな風に脅されてしまったら従うほかない。私はレンガのくぼみに手足をかけて塀をよじ登った。


「行きますぞ!」


 慣れた足取りで塀や屋根の上を歩くおじいさんを私は必死で追った。でも、彼みたいに早くは歩けないからどうしてもノロノロとした速度しか出ない。


 それでも私一人で歩き回っていたときよりもずっと効率がいいことは確かだった。あんなに遠かったニューゲート家の建物が段々と大きくなり始めて、私は感嘆する。


 しばらくしておじいさんが塀の上からジャンプした。身体能力が高くないと路地裏ではやっていけないのかしら?


「さあ、女神様」

 

 おじいさんの手を取って私も塀の上から降りた。目の前にはニューゲート城の門に面した大通りがある。


「ありがとうございます、おじいさん!」


 私はおじいさんに礼を言って表通りに出た。押し合いへし合いする人たちの間をどうにかくぐり抜け、門のところまで辿り着く。

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