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女神でも聖女でもないのに、何故か崇拝対象になりました ~変人貴公子の狂的な執着愛~  作者: 三羽高明


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意外な来客と贈り物(1/1)

 ギヨームさんが『ムーランおばさんのパンの店』を訪れたのは、ちょうど私がかまどの掃除を終えた後のことだった。


 まだ灰を売ったり注文したものを受け取ったりする仕事が残っていたけど、商人さんたちの応対は気を利かせたムーランさんが代わってくれることになったから、私はギヨームさんが来てすぐに住居スペースにある客間で彼と面会することができた。


「ギヨームさん、どうしてここに?」


 意外な来客だったから、私は目を丸くしながら尋ねる。


 そして、胸の中で小さな期待が膨らみつつあるのを感じながら小さな声で付け足した。


「もしかして……ラフィエルさんに頼まれたとか?」

「はい、その通りです」


 肯定しながら、ギヨームさんは私の姿を気の毒そうな目で見た。


「お嬢様、手やお顔が灰で汚れていますね。ここでのお仕事はそんなに大変なんですか?」


「デュラン家にいた頃と比べれば大したことありませんよ。……そんなことよりラフィエルさん、何て言ってたんですか?」


 気持ちが急いてしまって思わず身を乗り出す。ギヨームさんは傍らに置いてあったリボンでとめられた包み紙を差し出してきた。私はそれを受け取りつつも首を傾げる。


「何ですか、これ?」

「開けてみてください」


 促されるままにリボン紐をほどく。そこから出てきたものに私は息を呑んだ。


「これ、夜の聖女の……」


 包みの中に入っていたのは真っ白なローブとガラスの靴だった。


「お嬢様にお召しになっていただくために旦那様がご用意したものです」


 ギヨームさんが神妙な顔で言った。


「今月の末に行われる降誕祭記念の舞踏会をご存知でしょうか? 旦那様はお嬢様にその舞踏会に出席して欲しいと思っていらっしゃいます。その際にこのお召し物を身につけていただきたいとのことでした」


「ラフィエルさんが……?」


 私の胸の中で何かがパチンと弾ける音がした。


 ラフィエルさん、覚えててくれたんだ。私と踊るって言ったことを。それだけじゃなくて、今でも私とダンスしたいって感じてくれていたの?


 体中に喜びが満ちていくのを感じる。それが喉元まで突き上げてきて、少しの間声が出なくなってしまった。


「旦那様はその場でお嬢様にお話ししたいことがあるそうですよ」


 興奮のあまりギヨームさんが目の前にいることも一瞬忘れかけていたけど、際限なく高揚し続ける気持ちを必死で押さえ込みながら私は口を開いた。


「わ、私も言いたいことがあるわ」


 気持ちがはやってしまい、声がつかえた。


「だから、待っていてって言っておいて。必ず行くからって」


 今まで悩んでいたのが嘘みたいに、言葉がするすると出てくる。心の中に残っていた不安が一気に吹き飛んでしまったみたいだ。


 やっぱりラフィエルさんは魔法使いだ。彼からの贈り物一つ、言葉一つで、私の気持ちをこんなにはっきりとしたものに変えてしまったんだから。

 

「確かにお伝えしておきます」


 ギヨームさんが頷く。


 それは舞踏会を心待ちにする日々の訪れを知らせる合図のように見えた。 

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