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女神でも聖女でもないのに、何故か崇拝対象になりました ~変人貴公子の狂的な執着愛~  作者: 三羽高明


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灰かぶり、再び(1/2)

「ムーランさん、お掃除、終わりましたよ」


 かまどから出た灰でいっぱいになった木桶を床に置いて、私はムーランさんに声をかける。


「ご苦労様、女神さん」


 今日一日の収支を帳簿につけていたムーランさんが顔を上げる。


「もうすぐ商店から人が来るからね。いつも通り、灰を渡してお金を受け取っといておくれ」


「はい」


 私は返事しながら額の汗を拭った。寒さも本格的になってきた時期だけど、体を動かしたから体が少し汗ばんでいる。


 『あなたは一人でもやっていける』と言ってくれた母様の言葉を嘘にしないためにニューゲート城を出た私は、城下町にある『ムーランおばさんのパンの店』で住み込みで働かせてもらうことになった。


 本当はニューゲート家の領地からもっと離れた土地へ行く方がよかったのかもしれないけど、お金を少しも持っていなかったから近場で当面の資金を稼ぐことにしたんだ。


 ……なんて言うのは方便だ。


 ラフィエルさんと完全に離れてしまうのはまだ少しだけ覚悟が足りていなかった。一緒にいられなくても、せめてラフィエルさんの存在を近くに感じられる場所にいたかった。


 だからと言って、母様からもらった言葉を実行に移せていないわけじゃないと思う。


「おっ、今日も精が出ますね、女神さん」

「まいどありがとうございます」


 裏口で待機していると、いつもみたいに荷車を引いた二人の商店の店員さんがやって来る。


「これが今日出た灰ですね」


 私から木桶を受け取り、店員さんがその重量を量る。私はその重さに応じたお金を受け取った。店員さんはこうして集めた灰を今度は農民たちに肥料として売るんだ。


「女神さん、これ、お昼に注文してもらった分です」


 もう一人の店員さんが荷車を指して言う。私は、「ありがとうございます。いつものところへ置いておいてください」と言って、お金を払った。


「では、また明日」


 二人の店員さんが去って行くのを見送った後、私は受領書とお金が入った袋をムーランさんに渡した。


「今日もお疲れ。後は好きにしておくれ」


 早速受領書の内容を帳簿に書き写しながらムーランさんが言った。私は「お休みなさい」と挨拶して、居候させてもらっている二階の私室へ行く。着替えを持ってくると、そのままお風呂場へ向かった。


 作業着を脱いで湯涌で浴槽の湯をすくい、頭から被る。灰だらけになっていた体を綺麗にした後、湯に入った。


「はあ……」


 温かくて気持ちがいい。浴槽の縁にもたれかかりながら、私はほっと一息ついた。


 ここに来てから一週間くらい経ったかしら。初めは戸惑うことばかりだったけど、お仕事にもちょっとずつ慣れてきた。


 朝、お店のかまどに火をくべることから始まり、開店したら接客や商品の補充をする。お店を閉める時刻には閉店準備をして、さっきみたいに商人さんたちと交渉。


 これが今の私の一日だ。


 大変じゃないって言えば嘘になる。でも、ムーランさんや店員さんたちも優しくしてくれるし、お店に来てくれるお客さんだっていい人ばかりだ。そんな人たちに囲まれて過ごすのは結構楽しいことでもあった。


――あなたは強い子。一人でもやっていけるわ。


 私が母様を殺してしまったという罪の意識は今でも心のどこかに残っている。けれど、忙しい日々の中ではいつまでもそんな感傷に浸り続けている暇はなかった。


 それでもこうして時間ができると、母様のことをふと思い出すことがある。


 きっと今の私が、あの母様の言葉は本当だったんだと身をもって実感している状態だからだろう。


 ほとんど初対面の人ばかりの中でたくましく生きている。昨日はムーランさんから「女神さんは物覚えが早くて助かるねえ」と言われたし、お客さんのグラスにジュースを注いでいるときには、もうこのお仕事を何年も続けているんじゃないかって錯覚してしまった。


 そんな瞬間が来る度、自分が生まれ変わっていくような気がしていた。私って、こんなことができる。こんなにも色々なことをやれてしまう。そんな自信が少しずつ、でも確実についてきて、何だか自分が強くなったように感じてしまうんだ。

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