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女神でも聖女でもないのに、何故か崇拝対象になりました ~変人貴公子の狂的な執着愛~  作者: 三羽高明


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最悪の予感(1/1)

「母様、私、舞踏会に出るのよ」


 ふわふわと漂う意識の中で、私は母様と会話していた。私は頬を染めながら、ベッドに横たわる母様の手を握る。


「私ね、舞踏会に行くのがずっと夢だったの。しかも、そこでラフィエルさんと踊るのよ。今から待ち遠しいわ」


 はしゃぐ娘の姿を母様は静かな目で見つめていた。その瞳を見ている内に、私はおかしな感覚を覚えてしまう。


「……どうしたの、ディアーナ」


 いきなり黙り込んだ私を不審に思ったのか、母様が尋ねてきた。私は胸元を押さえる。


 確かに以前の私は舞踏会に行けることを嬉しく思っていた。そこで踊れる日を楽しみにしていた。


 でも、今となっては……。


「母様、私、分からないわ」


 込み上げてくる不安感に呑み込まれてしまいそうになりながら、私は首を振った。 


 ラフィエルさんのことが好きなのに。何よりも大好きだったはずなのに。


「私……どうしたらいいの? どうすればいいの?」


 ラフィエルさんが捨てた瓶を拾おうとしたときの記憶が蘇ってくる。あのときの絶望は忘れようもない。


 甘く優しく柔らかな夢の終わりを感じてしまった後の私は、ひどく不安定な気持ちになっていた。


「ディアーナ、大丈夫よ」


 母様が背中をさすってくれる。


「あなたは強い子なんだもの。自分がどうすればいいのかについて、きっと答えを見つけられるわ。心配しなくていいのよ」


「でも、母様……」


 何かを言いかけて、私は目を覚ました。赤褐色の天井と白い壁が目に入る。


「はあ……」


 どうやら夢を見ていたらしい。ベッドの上で寝ていた私は気怠げなため息をつきながら、何気なく首を動かした。


「あっ……母様……」


 このとき初めて、部屋の中に他にも人がいたことに気が付いた。母様が私の横たわっているベッドに突っ伏す形で眠っていたんだ。


 ナイトテーブルには水差しや濡れたタオルが置かれている。よく覚えてないけど、多分私は熱を出してしまっていたはずだ。もしかして母様、看病してくれてたの? 自分も病気なのに無理させちゃったかしら?


 申し訳なく思いながら、私は自分の毛布を母様にかけてあげようとした。


 異変に気が付いたのはそのときだ。


 母様の顔色が極端に悪い。呼吸も何だかおかしかった。


 私は思わず毛布を握りしめた。そして、恐々母様の肩を揺さぶる。


「母様……?」


 小さな声で呼びかけてみたけど反応がない。とっさに口元を押さえて悲鳴を呑み込むと、私はベッドから飛び出した。


「だ、誰か!」


 いきなり動いたせいなのか、目眩を覚えて視界が揺らぐ。けれど、そんなことに構っている場合ではなかった。私はよろけながら廊下に出て、声の限りに叫んだ。


「誰か来てください! か、母様が……!」


 足がもつれ、その場に倒れる。向こうから、「どうなさいました!?」という声と、人が駆けてくる気配がした。


 けれども、それを聞いても何故か助かったとは思えなかった。私は床に伏したまま涙を流す。頭の中に浮かんでくる最悪な想像をどうしても止めることができずに、ただ震えていることしかできなかった。

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