城下町デート(3/3)
しばらくして、何だか様子がおかしいということに気が付く。だってラフィエルさん、中々帰って来ないから。どこまで行っちゃったのかしら?
それからもう少しだけ待ってみたけど、やっぱりラフィエルさんは戻らない。道に迷った、なんてことはないわよね。ラフィエルさん、この辺りには詳しいって言ってたんだもの。
もしかして何かトラブルにでも巻き込まれたの? 探しにいく方がいいかしら?
「おや、お嬢様ではありませんか」
迷っていると声がかかる。顔を上げた私は、あっと言いそうになった。
「ギヨームさんとタニアさん……」
私服姿の二人が仲良く連れ立って私を見ていた。やっぱり今日、デートしてたんだ。
「お一人ですか?」
タニアさんが意外そうに辺りをキョロキョロした。ギヨームさんも「変ですね」と首を傾げている。
「旦那様が昨日、『女神とデートしてきます』と言っていたので、てっきりご一緒かと思ったのですが……」
「うん、そのことなんだけど……」
ラフィエルさんの捜索に協力してもらおうと思って、私は事情を話そうとした。でも、それを遮って、ある人物が私とギヨームさんたちの間に飛び込んでくる。
「そこまでですよ。彼女は僕の女神なので、無駄に絡むのはやめてください」
ラ、ラフィエルさん!?
探していた人があっさり現れて、私は目を丸くした。……いや、その前に、何でそんなに意気揚々とした顔してるの?
「……なんだ、ギヨームじゃないですか」
でも、驚いたのはラフィエルさんも同じだったみたいだ。タニアさんと一緒にいた自分の従者を見て、軽蔑の表情を浮かべる。
「デートの最中なのに他の女性に興味を持ってしまうような人だったんですか、あなたは。そんなことをするとは思いませんでしたよ」
「邪な意図があってお声をかけたわけではありません」
ギヨームさんは気分を害したみたいだった。
「私はお嬢様がお一人でいるのを不審に思って話しかけただけです。てっきり旦那様とご一緒かと思ったものですから」
「一緒ですよ、もちろん」
ラフィエルさんが私の肩を抱く。
「物陰から女神の様子を見ていました。一人なら、きっと誰かに声をかけられるだろうと思ったので」
「ラフィエルさん……」
私は頭を抱えた。そんなに私がナンパされるところを見たかったの? そのためにわざわざ嘘まで吐いて私から離れたってわけ? 本当に変わり者なんだから……。
ラフィエルさんの説明を聞いても、ギヨームさんもタニアさんも何一つとして理解できなかったみたいで、顔を見合わせている。当然の反応だ。
そんな中で、ラフィエルさん一人だけが上機嫌になっていた。
「ほら、女神。僕の言った通りでしょう。やっぱり君は魅力的です。思わず声をかけてしまいたくなるような女性なんですよ」
「……ええ。そうみたいね」
ここは適当に話を合わせておこうと思って、私は帽子についたリボンをいじりながら気のない返事をした。
でも、これも一応ラフィエルさんの厚意の表れなんだろう。変な手段だってことは否定できないけど、その裏側にある思いやりに触れて、くすぐったいような気持ちになった。
「お二人とも、これからどこかへ行くご予定がありますか?」
ラフィエルさんがおかしなことを言い出すのには慣れているのか、タニアさんが無邪気に聞いてくる。
「ないんだったら、一緒にお昼、食べません? あたし、美味しいパン屋さん知ってるんですよ!」
「もしかして、『ムーランおばさんのパンの店』ですか? あそこのパン、フワフワなのやモチモチしているものが多いので、僕も好きです」
「やっぱり旦那様は詳しいですね~。じゃあ、早速行ってみましょう!」
相変わらずタニアさんは元気いっぱいだ。辻馬車乗り場へ向かって、弾む足取りで駆けていく。その後ろにギヨームさんも続いた。
「女神」
私も二人についていこうとしたんだけど、ラフィエルさんに呼ばれ、足を止める。
「人数が増えました。この状況はデートと呼んでもいいのでしょうか」
「いいんじゃないの。臨機応変にいきましょうよ、その辺は」
「そうですか。難しいんですね」
困ったようにうなるラフィエルさんを見て、難しいのはあなたの考えを理解することじゃないの、と思わず言いたくなってしまった。




