光の中で、二人でダンスを(3/3)
「僕が気にしているのはそこではないので。僕が重大な問題だと思ったのは、女神が自分自身にまったく価値を見出せていないということです」
「私の価値……?」
何とかラフィエルさんの動きについていきながら、私は呆けた。
「何でそれがラフィエルさんにとって重要なの?」
「それはもちろん、君が価値のある人だからです」
ラフィエルさんは、何を当たり前なと言いたそうだった。
「自己評価は正しく行われるべきです。そうは思いませんか? もっと自分に自信を持ってください、女神」
「そ、そんな。自信なんて言われたって……」
いつも通りに私を肯定する台詞を口にするラフィエルさんに、何だか泣きそうな気分になりながら、私はうなだれた。
「無理よ、そんなの。どこに私が自分自身を誇れる要素があるっていうの。こんなひどい見た目なのに……」
「君が自分自身を誇れる要素? 自信に根拠なんかいりませんよ。特に理由なんかなくても、自分は何よりも素晴らしいと思っていいんです。君がそう言ったんですよ。僕が小さい頃、夢の中で」
「でも……」
「それに見た目の美しさなんて、そんなに重要ですか? 仮に見た目を自信の拠り所にしたとして、その美が失われてしまったらどうするんです。僕は女神にそんなあやふやなものを信じて欲しくはありません」
ラフィエルさんはきっぱりと言い切った。
「知っていますか、女神。自分のやりたいことをすると自信がつくんですよ。だから僕は君をダンスに誘いました」
てっきりラフィエルさんの気まぐれで突然踊ることになったと思っていたから驚いた。これって私のためだったの?
ラフィエルさんはさらに続ける。
「後二ヶ月ほどで、ニューゲート城で舞踏会が開かれます。このギャラリーも会場の一部になっているんですよ。何のための舞踏会か分かりますよね。『夜の聖女の降誕祭』です」
夜の聖女の降誕祭――この国に夜の聖女が降り立ったとされる日を祝うお祭だ。当日は国中でパーティーなどの催し物が開かれる。
「その舞踏会で君には僕と踊ってもらいます。ダンスができなかったらどうしようかと思っていたんですが、そんなことはなかったので安心しました。もちろんそのときは、『女神が降り立った夜』の主人公が身につけていた白いローブとガラスの靴を着用してもらいますよ」
私が夜の聖女の格好で舞踏会に出て、そこでラフィエルさんと踊る? また勝手なことを!
軽くなじりそうになったけど、口にはしなかった。
ラフィエルさんの言葉で、すっかり心が軽くなっている。自分の価値を認めるのは今すぐには無理かもしれないけど、きっといつかはできるようになる気がしていた。ラフィエルさんの傍にいれば、上手くいくと思えてくる。
「うん、踊るわ。私、ラフィエルさんと一緒に舞踏会に出る」
胸の中で温かな感情が芽を出した音が聞こえた。そこから生まれる幸福が全身に流れ込んでいく。その喜びに導かれるように、私はそっとラフィエルさんの体に頬を寄せた。
そうだったわ、私、舞踏会に憧れてたんだった。ナンシー姉様やレイラさんがニューゲート家主催の舞踏会に招待されたって聞いたとき、私もそんな華やかなところで素敵な男性と踊ってみたいって考えてしまったんだ。
そのときは、そんなのは叶うはずのないただの夢だと思っていた。でも、その夢が現実になるかもしれないんだ。
この光り輝くギャラリーでまた踊れると考えただけで気分が高揚してくる。しかも、そのダンスの相手がラフィエルさんだなんて、これ以上ないくらいに素晴らしいことだった。
もう認めてもいいかもしれない。
いつだって私のことを考えてくれる。私を大切に思ってくれる。
そんなラフィエルさんに私、恋をしているんだ。




