光の中で、二人でダンスを(2/3)
「女神は、自分の抱えている妄想に気が付いていないんですね。君がお母様のために一生懸命なのも、『取扱注意』さんを助けるのも、全部妄想から来ている行為ですよ。僕に同情していたのだって、きっと同じようなものです」
「どういうこと?」
何だか不安定な気分になってくるような言葉だ。うっかりラフィエルさんの足を踏んでしまう。
「つまり君は、自分に対して自信を持てていないんですよ。自尊心が低い、と表現すれば分かりますか?」
ラフィエルさんは足元に一瞬視線をやって、痛そうに顔をしかめた。
「姉妹たちに悪口を言われ、ひどい姿で過ごしてきたんだから、仕方がないでしょうけどね。そんな状態では、自分を肯定的に見られるはずもありません」
ラフィエルさんは悲しそうに首を振る。
「だから女神は、無意識の内に低くなってしまった自尊心を高めようとしていたんですよ。他者を助けることによって。そうすることで、自分は価値がある存在だと思い込もうとしていたんです」
息が止まりそうになった。心の奥深いところにまで踏み込まれたような感覚がして、思わずダンスをやめてしまう。
「不遇な自分より不幸な人を助ける、何をやっても上手くいかない相手に手を貸す。自分は彼女たちの救世主になる。それが、女神が抱いていた妄想です」
言葉が出ない。否定も肯定もできなかった。
でも、ラフィエルさんの言ったことは、砂に水が染み込むようにすっと頭の中に入ってくる。
まるで、それは本当だって――ラフィエルさんの発言は正しいっていうみたいに。
「ラフィエルさん、私……」
何が言いたいのか自分でも分からなかった。思考が凍り付いて、まともにものが考えられなくなる。
「……ダメ、よね」
やっと言えたのはそれだけだった。
「そういう下心って、よくないわよね」
最悪な家庭環境の中で、私は母様を守ってきた。
かわいそうな私よりももっとかわいそうに見えるラフィエルさんをどうにか助けてあげたいと思った。
きらびやかなお城でみすぼらしい姿の自分を再確認した後、仕事が上手くいっていないタニアさんに手を貸そうとした。
自分を突き動かしていたものの正体が分かって、私は愕然としていた。私、なんて利己的なことを考えてたんだろう。人を助ける自分に酔っていたなんて、すごく恥ずかしくなってくる。
しかも、それを他人に指摘されるなんて。よりによって、その相手がラフィエルさんだったなんて。
このまま消えてなくなってしまいたい、と本気で思った。きっとラフィエルさんは、こんな傲慢な私に呆れているに違いない。
「ダメなのかどうか、僕には分かりません」
でもラフィエルさんは何でもないように言って、私の手を強く握り直す。そのままステップを踏み始めた。
やめていたダンスを強引に再開され、私はつまずきそうになる。




