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女神でも聖女でもないのに、何故か崇拝対象になりました ~変人貴公子の狂的な執着愛~  作者: 三羽高明


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女神の部屋(1/2) 

「お疲れ様、ラフィエル」


 ベッドで寝ている僕の頭を、女神が少しカサついた手で撫でてくれる。


「ゆっくり休んで。私が傍にいてあげるから」


 僕は女神の膝に頬を寄せた。なんて柔らかくて温かいんだろう。疲れが吹き飛んでいくのを感じながら、僕は呟いた。


「今日はすぐに消えていかないんですね、女神」


 最近の女神は、現れたと思ったらすぐにいなくなってしまう。その変化に戸惑っていた僕は、今日の女神は長い時間一緒にいてくれると気が付いて嬉しくて仕方がなかった。


「ずっと傍にいてくださいね」

「あら、現実の私のことはいいの?」


 女神はイタズラっぽく笑う。僕は不意に、どうして今の女神は僕に寄り添ってくれているのか分かった気がした。


「よくないですよ。どの女神も僕にとっては大事です」

「じゃあ、そろそろあっちの私のことも相手してあげて」


 ふっと女神の姿がかき消える。暗い部屋の中に僕は一人で取り残された。


 でも、不安感はなかった。だって、もう一度女神が僕の前に現われたんだから。


 消えてしまったはずなのに、と疑問に思う前に、僕は女神に手を伸ばし、寝台の中に彼女を引っ張り込んだ。



****



「ラ、ラフィエルさん!?」


 ベッドで寝ていたラフィエルさんに近づいたらいきなり引き寄せられて、私は心臓が止まりそうになるくらい驚いた。


 ここは白鳥の館だ。ドジな使用人のタニアさんのお手伝いを終えた私は、母様たちのいるコマドリの館に移る許可を得るために、ラフィエルさんに会おうと彼の仕事部屋へ向かった。


 でも、ラフィエルさんは執務室にはいなかった。何でも、仕事が一旦落ち着いたので、少し休憩をしているらしい。そこで通されたのがこの部屋だ。


 最初はラフィエルさんの居室かと思ったんだけど、どうも様子が変だった。それで、部屋を見回しながら歩いている内に、いつの間にか起きていたラフィエルさんに私は捕まってしまったんだ。


「女神、君は本当に意地悪ですね。どうして消えるなんて嘘を吐くんですか」

「私、女神じゃないわ! ディアーナよ!」

「でぃあ……?」


 ラフィエルさんはごにゃごにゃとした声で何かを言ったけど、まだ半分は夢の中にいるみたいだった。私が抵抗するのにも構わずに、太ももの辺りに顔を寄せてくる。


 私は「きゃあ!」と悲鳴を上げて、思わずラフィエルさんを思いきり蹴飛ばしてしまった。


「……痛いです」


 寝ぼけていたラフィエルさんは、やっと起きたみたいだ。ベッドから出てカーテンを開ける。そこから月の光が射し込んだ。


 タニアさんを手伝ったりコマドリの館から白鳥の館まで移動したりする内に、すっかり日は落ちてしまっていた。


「僕は蹴られて喜ぶようなタイプではないのですが」

「……喜ばせようと思ってやったわけじゃないわ」


 窓辺に腰掛けるラフィエルさんを私は軽く睨んだ。頬が熱くなっているのが分かる。


「ラフィエルさん、また女神の夢を見ていたんでしょう。もう、いい加減に私と夢の女神との区別をつけてよ」


 ラフィエルさんが邪な心を持っていないのは今までの経験からよく分かっていたけど、こんなことを何回もされたんじゃ、私の心臓が持ちそうになかった。


 でも、ラフィエルさんは肩を竦めて、「それは無理です」と言う。


「実は君と出会ってから、夢の女神が段々君の姿に似てきたんですよ。夢と現実が一つになりつつあるんです。僕は夢の中でも君に会っているんですよ」


「夢の中でも……」


 また顔が赤くなってくるのを感じる。何てこと言うのかしら、この人。夢でも現実でも、そんなに私と一緒にいたいの?


「でも、最近夢の女神が冷たいんです。僕の元からすぐに消えてしまうようになって」


 言いながらラフィエルさんは、まだベッドにいた私の隣に腰掛けた。


「だけど、今日の夢の女神は長い時間傍にいてくれました。それで、近頃の女神が短い時間で消えてしまうようになった訳が分かったんです」


「……どうしてなの?」


「君の存在ですよ。『昼間私とたくさん会ったんだから、夜はいいでしょう』ということだったんでしょう。だから今日は長時間寄り添ってくれたんです。昼間、仕事が忙しくてあまり君に会えなかったので」


 ラフィエルさんはためらいもなく私の膝に頭を預けてきた。もしかして、さっき私の脚を触ってたのも、膝枕して欲しかったからだったの?


「自分で自分を褒めてあげたいです。こんなに長い時間、君なしで机にかじりついていたなんて。そんな僕を慰めるために、夢に女神が出てきて一緒にいてくれたんですよ」


 ラフィエルさんが手を伸ばして私の頬に触れた。ふぅ、とため息が聞こえてくる。


「ラフィエルさん、疲れてるんでしょ」


 心臓が早鐘を打つのを感じながら、私はラフィエルさんの深い青の瞳を見つめた。


「侍女たちが言っていたわ。ラフィエルさん、朝から晩までお仕事で忙しいって」

「はい、そうですね」


 ラフィエルさんは指先で私の頬に円を描いている。


「僕は何もかもを完全に人任せにしてしまうのが苦手みたいです。でも、これからは少しその考えを改める必要がありますね」


「どうして?」


「もちろん、君と過ごす時間を作るためです。僕は君と一緒にいたいので。女神と長い時間会えなかったせいなのか、仕事中も君のことばかり考えていました。気が散って仕方がなかったので、本当に困ります」


 ……私と会うことは、ラフィエルさんの中ではそんなに重要なの?


 また鼓動が早くなる。何だか息も苦しくなってきた。


 おかしいわ、私。今だけじゃなくて、ラフィエルさんといるといつも変な気持ちにさせられる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 困ったやっちゃなーぁぁぁぁぁぁ! これは結婚したら苦労するなぁディアーナ いやー、これさ ほんと 前も申しましたが、子供のまま大人になった! この人は。 もうね、言うこと聞いてたらまんま…
2022/01/28 14:48 退会済み
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