その使用人、取扱注意につき(1/2)
「ああっ! お止めください、お嬢様!」
「そのようなことは、下働きの者どもにお任せを……!」
侍女たちの悲鳴が聞こえる。
その視線の先にいるのは、シーツを干している私だ。しかも、タニアさんに借りた使用人の服まで着ている。
「手慣れてますね、お嬢様」
青ざめる侍女たちに対し、タニアさんは呑気な顔をしていた。さっきまで洗濯物が入っていた空のカゴを抱えながら、風に翻る真っ白のシーツを眩しそうに見つめている。
「実家じゃ、ずっと家事をしていたんです」
私はシーツを手でピンと張って、シワを伸ばしながら言った。侍女が一人、卒倒するのが視界の端に映る。
「あの、もう戻っていていいですよ」
いたたまれなくなって、私は侍女たちに声をかけた。
「帰りは別の人に送ってもらいますから。それに、その人の手当もしてあげてください」
私が倒れた侍女を見ながら言うと、皆顔を見合わせた。
「で、では、そうさせてもらいます」
「こんなところにいたら、心臓がいくつあっても足りませんわ……」
侍女たちは、私のことを恐ろしいものを見るような目つきで眺めた後、倒れた仲間を引きずって馬車の方へと向かっていった。
「ご令嬢なのに家事ですか」
タニアさんはそんな騒ぎには目もくれずに、驚いたような顔になる。
「だから、そんなに手やお肌が荒れていたんですね。髪は邪魔だから切ったんですか? 日焼けもひどいです。……苦労したんですね、お嬢様。旦那様もご自分の女神様がそんな境遇に置かれていたとは思わなかったでしょうね」
ここでもまた『女神』扱いだ。ふと気になって、私は尋ねる。
「このお城の人たちって、私のこと、どんな風に認識してるんですか?」
侍女たちも、まるで私のことを本物の夜の聖女みたいに扱っていた。
でも、そうかと思えば「旦那様と上手くいってらっしゃらないのですか?」なんて聞かれて、愛人みたいに思われているようにも感じられるし……。よく分からない。
「どんな風って……そりゃあ、『旦那様の女神様』ですよ!」
タニアさんは当たり前のことを話しているような口調になる。
「旦那様をお助けてしてくれる人です。あの方の昔からの憧れですよ」
……憧れ、か。
なるほど、何となく分かった気がする。使用人たちは使用人たちで、私に別の妄想を抱いているみたいだった。
愛人でも、ましてや夜の聖女でもない。私は……『女神』は、ニューゲート家の当主であるラフィエルさんを支える器の持ち主。多分そういうことなんだろう。




