あなたが私を変にさせる(3/3)
「あの……ラフィエルさんはどこに?」
そんなことを考えていたら、ラフィエルさんに会いたくなってきた。でも、私の問いかけに、侍女たちは渋い顔をする。
「中央棟の執務室でしょうね。長い間お城を留守にしていらっしゃったので、お仕事が溜っていて……」
「こちら、旦那様の予定表ですわ」
一冊の本を渡される。開けてみてびっくりした。だって、どの日も朝から晩までびっしりとスケジュールが組まれていたんだから。
「貴族の家の当主って大変なんですね」
デュラン家は一応ナンシー姉様が当主ってことになってたけど、姉様は毎日ブラブラと遊び歩いていたから、この忙しさは予想外だ。
まあ、デュラン家とニューゲート家じゃ、家の規模が全然違うから、単純な比較はできないのかもしれないけど……。
「旦那様はちょっとしたことでもお一人でやってしまいますからねえ」
侍女が頬に手を当てる。
「他の人に仕事を依頼しても任せっきりにはしないんですよ」
「領地の端っこの方の村の井戸掘りの視察までして……」
「お城の庭木をちょっと植え替えたときだって、わざわざ立ち会っていらっしゃいました」
ラフィエルさん、意外と神経質っていうか、細かいところが気になるタチなのかしら?
「旦那様は本当に多忙ですよ。ですから私たち、いつも言っていたんです。旦那様には何かしら癒やしが必要だって」
「ですから、旦那様がお嬢様をお城に連れてきたときは、皆びっくりするやら喜ぶやらで……。なにせ、旦那様の女神が本当にいたんですから」
侍女たちは神妙な目で私を見た。神々しそうな目つきだ。やっぱり変人って伝染するのかもしれない。皆、ラフィエルさんの妄想に取り込まれつつあるみたいだ。
でも、さっきは「旦那様と上手くいってらっしゃらないのですか?」って聞かれた気がする。あのときはてっきり、愛人扱いされてるのかと思ってたんだけど……。
もしかして彼女たちの中では、私は女神とか愛人とかを越えた、もっと特別な存在ってことになってるの?
……まあ、いいか。今は別のことを考える方が先だ。
「じゃあ、ラフィエルさんには会えないんですね」
忙しいのにわざわざ時間を作ってもらうのも悪い気がする。第一、大した用があるわけでもないんだし……。
ラフィエルさんに面会できないと分かった途端に、何だか不安定な気持ちになってきた。一体どうしたのかしら?
そんな私の頭に、ある人の顔がふっと浮かんでくる。……母様! そうよ、母様は元気かしら?
「コマドリの館ってどこですか?」
ラフィエルさんは、母様はコマドリの館というところにいると言っていた。
早く母様に会わないと。それを終えるまでは、休息を取っても心も体も休まりそうになかった。




