あなたが私を変にさせる(2/3)
「お嬢様、お疲れでしょう」
私がぼんやりしているのに気が付いたのか、侍女がいたわるような声を出した。
「まずはお風呂で汗を流して、お着替えをしてから、ゆっくりとお休みになってください」
「湯浴みが終わった後のお召し物はいかがなさいますか? 職人が服を完成させるまでの間は、こちらからお選びくださいね」
そう言って、侍女たちは私に次々と服をあてがっていった。
でも、どれを見せられても、どうもしっくりこない。綺麗な格好をすればするほど、ガサガサの肌や傷んだ爪、短い髪が目立ってしまう。
いつもそうだけど、ラフィエルさんが用意した服に着替える度に、私はちょっとした気後れを感じてしまう。
しかも、今日は周りにたくさんの侍女がいるっていうこともあって、余計に自分のひどい見た目が気になってしまった。
「あの……おかしくないでしょうか?」
私は思わず尋ねた。すると、間髪入れずに返事が返ってくる。
「とても素晴らしいですわ」
「ええ、本当によくお似合い」
「女神そのものですね」
次々に褒め言葉が降ってくる。
でも、いまいち響かない。
どうしてかしら、と思ったけど、すぐに分かった。皆の発言がお世辞だったからだ。
でも、それは仕方ない。だって本音で話してしまえば、「とってもおかしいです」とか「その見た目じゃ、何を着ても変ですよ」って言うしかないんだもの。
自分のことは自分が一番理解している。やっぱり私は全然綺麗じゃないんだ。
侍女たちが言うように貴婦人には見た目が重要なら、こんな私は令嬢失格だ。ううん、平民の女の子だって、もっと身綺麗にしているはず。野良犬みたいだって前に言われたけど、その通りなのかもしれない。
そんなことよく分かっているから、ちょっと褒められたくらいで舞い上がってしまうわけないじゃない。
「お嬢様、素敵な宝飾品もありますよ」
私が浮かない顔をしていると、侍女が大慌てで木製の小物入れの扉を開けた。これ、アクセサリーケースだったの? 私の身長より大きいのに……。
中には、色とりどりの宝石をあしらった指輪やネックレス、ブローチなんかが山のように収納されている。
侍女たちはそれを一つ一つ私の前に持ってきては、「素敵ですわ」、「素晴らしいです」と、またお世辞を繰り返した。
私はその光景をぼんやり見つめながら、宝石の光に目を細める。何だか、私には眩しすぎる輝きだった。
「ああ、どれもとってもよくお似合いですわ。まるでお嬢様も宝石のよう!」
聞こえてきた言葉に、私は唇を軽く噛んだ。
私が宝石? そんなバカな。宝石は元から美しいし、磨けば光るかもしれないけど、私がみすぼらしくて惨めな娘だっていうのは、どんなに飾り立てたって誤魔化しようのないことなのに。
そう、そのはずだ。
それなのに――。
――確かに悲惨な姿ですが、それでも君は美しい。
気落ちしていた私の頭に、ラフィエルさんの言葉が蘇ってくる。そして、何だか不思議な気分になった。少しだけ心が軽くなった気がしたんだ。
『美しい』なんて、この侍女たちも口にしている台詞だ。じゃあどうして、ラフィエルさんの言葉だけは私の胸に真っ直ぐに響いてきたのかしら?
……もしかして、そこに嘘がなかったから?
ラフィエルさんは正直者だ。純真な目で私を見て、裏表のない言葉をくれる。ただ甘いことを言っているだけじゃない。
そんなことをしてくれるのは、ラフィエルさんが少しおかしいからなのかもしれないけど……。でも、彼といると心が安まるのは本当だった。




