あなたが私を変にさせる(1/3)
「……さあ、こちらへ」
部屋には着いたけど、まだ案内は終わっていなかったらしい。次に通されたのは、衣裳部屋だった。でも、あんまり服は入っていない。
ラフィエルさんなら、山のようにドレスを用意してるのかと思ってたんだけど……。準備が間に合わなかったのかしら?
「では、失礼します」
でも、真相は少し違ったみたいだ。気が付いたときには、私は部屋の奥から現れた三人の女の人に囲まれて、巻き尺で体のあちこちの長さを測られていた。
「あ、あの……?」
「動かないでください。大丈夫、すぐに終わりますから」
私の腕の長さをメモ帳に転記していた女の人が注意してくる。
「この人たちは?」
できるだけ同じ態勢でいるように気を配りながら、私は侍女に質問した。
「お嬢様のお洋服を作ってくださる方々ですわ」
「服?」
「ええ。ご用意させていただいたものは、全て既製品ですから」
侍女が部屋に置いてあった服を手のひらで示して言った。
「次はこちらの見本をどうぞ」
されるがままになっている内に採寸は終わったみたいだ。今度は、色々なドレスを着た女性の絵が載った分厚い冊子を渡される。
「どのようなドレスがお好きですか? 今年の流行ですと、このように背中が大胆に開いたものがよろしいですね。ですが、淑女らしさを出すために、あえて露出の少ない格好をなさる方も……」
「え、ええと……」
服職人はペラペラ喋りながら、冊子のページをすごい速さでめくっていく。私はそれを目で追うだけで精一杯だった。
「……お任せします」
やっとそれだけ言って解放されるかと思いきや、今度は布選びが始まる。
続いて、靴や装飾品や帽子や手袋、その他諸々のデザイン決め。色々と見せられすぎて、頭がこんがらがってきた。
「申し訳ありません。お着きになって早々このように忙しくて」
それらが終わり、服職人が帰り支度を始める頃には、どっと疲れが出ていた。何だか丸一日歩き回っていたような気分だ。
衣裳部屋にあった小さな椅子に腰掛けていると、侍女が話しかけてくる。
「ですが、着るものがないと困りますからね。貴婦人たる者、見目には手を抜けませんわ」
そういうものなの? もう何年もボロボロの布きれしかまとっていなかった私には、よく分からない。
「一からの用意は本当に大変ですわ。でも、これも全て旦那様のお心の現れ。お嬢様は本当に愛されていらっしゃいますね」
愛? そうかしら?
『僕は君に恋をしているんでしょうか』という、ラフィエルさんの質問を思い出す。仮にそこに愛があったとしても、それは女神の化身である夜の聖女への愛であって、私――ディアーナに向けられる恋愛感情じゃないんじゃないかしら?
そう考えると、何だか複雑な気分だ。
一体何なのかしら? 相手の一挙一動に気を取られてしまうのはラフィエルさんの方だったはずなのに、いつの間にか私がラフィエルさんに振り回されちゃってる。
ラフィエルさんだけじゃなくて、私までおかしくなってしまったのかもしれない。変人って、伝染するのかしら?




