僕は君に恋をしているんでしょうか?(1/2)
――私、ラフィエルさんの何なの?
女神の問いかけが頭から離れない。
僕にとって女神はずっと女神だった。僕の頭の中にしかいない理解者だ。
でも、その女神が現実に現れた。現実にいるんだから、彼女はもう『僕の頭の中にしかいない理解者』ではない。
「どうしたの、ラフィエル」
考え込む僕に女神が話しかけてくる。一瞬、妄想と現実、どっちの女神なんだろうと疑問に思ったけれど、多分これは僕の頭の中で起こっていることだ。つまり、彼女は想像上の女神だ。
「女神、君は僕にとっての何なんでしょう」
僕は女神に問いかける。女神はクスクスと笑った。
「知らないわ。自分で考えて」
女神が突き放すような台詞を吐いて、僕は目を見開いた。
女神はいつも僕に都合のいいことしか言わないのに。こんなことは初めてだ。
初めて?
いや、違う。これは今に始まったことじゃない。
僕の頭の中の女神は、ずっと幼い少女の姿をしていた。それが今では、十七歳の娘に変わっている。髪型だって、前は床につくほどの長さだったのに、今は丸刈りだ。
それに、現れたと思ったらすぐに消えてしまうようになった。それまでは、僕が満足するまで傍にいてくれたというのに。
何かが変わりつつある。少しずつ。でも、確実に。
「ラフィエルさん、起きて」
体を揺さぶられる感覚がした。馬車の中でうたた寝をしていた僕は、目を覚ます。
「もうすぐニューゲート城ですって」
女神が僕の顔を覗き込んでいた。これは現実の世界にいる女神だ。
……本当に?
妄想が現実と一つになりつつあるのを僕は感じていた。いつかは、夢と現実の女神の区別もつかなくなってしまうのかもしれない。
「……女神」
でも、だからといって別に不都合はなさそうだ。夢だろうが現実だろうが、どちらの世界にも女神がいる。それだけで僕は満足だ。
僕が頬を撫でると、女神はちょっと体をこわばらせた。すぐに顔が赤くなる。可愛い反応だ。
「ラフィエルさん、また夢を見てたの?」
女神が尋ねてくる。
「寝言が聞こえたわ」
「はい、女神と会っていました」
「そう」
女神は困ったものだという表情になる。彼女は時々、僕のことを珍しい生き物か何かを眺めるような目つきになることがあった。
どうやら、自分の頭の中にしかいない相手と対話するというのは、よっぽどおかしなことらしい。他の人は、自分の妄想に入り浸ったりしないんだろうか。
「女神、君にとって僕は何ですか」
質問に質問で返すのはよくないのかもしれないけれど、ふと気になって僕は尋ねた。
「何? 急に」
案の定、女神が戸惑う。
「ずっと考えていました。僕にとって女神が何なのか。でも、答えが出ないので、君の回答をヒントにします」
別邸で女神に聞かれたときから今まで考え続けたけど、どうしても納得のいく表現が見つからなかった。
夢の世界の女神にも見放されてしまったし、そんな今の僕が頼れるのは、現実の世界の女神しかいない。
女神が答えを持っていれば、それを僕たちの関係の名前に当てはめようと思っていた。
「分からないわ」
でも、女神は視線をそらせて首を横に振った。
嘘を吐いている、と僕は直感する。
それとも、『嘘』ではなく、『隠し事』かもしれない。
でも、どうして隠したりするんだろう。僕は女神に詰め寄った。




