一緒に寝ましょう(2/2)
「だって……そんな……よくないわ、色々。ラフィエルさん、離して! もし使用人が私を起こしに来て、この光景を見たらどうするの?」
「何か不都合があるんですか」
ラフィエルさんは眠そうに目を擦りながらキョトンとする。寝起きで頭が上手く回ってない……ってわけじゃないわよね。この人は、いつもこんな感じだ。
「私がラフィエルさんの愛人だと思われちゃうでしょう! いいの? ラフィエルさんは、愛人をたくさん囲っていた父様のことが嫌いだったんでしょう?」
何とか説得できそうな理由を思いついて、私は少し冷静になってきた。
「そんな父様と同類として見られちゃうのよ。嫌でしょう、それ」
「同類ではありません。僕はたくさん愛人を抱えていませんので」
予想通り、ラフィエルさんはムッとした顔になる。上手く私の話に乗ってくれたみたいだ。
「どうかしら? 愛人って、一人いたら後十人はいると思えって言うじゃない」
「そんなの初耳です。分裂でもするんですか」
「しないわ。人の欲には限りがないってことよ」
「そういうものですか」
「そういうものよ」
私は力強く頷いてみせた。さあ、もう一押しだ。
でも、そう思った矢先に、ラフィエルさんが私を胸元に引き寄せてきた。
「たとえそうだとしても問題はありません。女神は僕の愛人ではないので」
……ああ、説得、失敗したかもしれない。心臓が大きく跳ねる音を聞きながら、私は固まってしまった。
「一人もいないので、後の十人もいません。大丈夫です」
「ぜ、全然大丈夫じゃないわ。端から見れば、この光景は十分疑わしいわよ。大体ラフィエルさん、私のこと人に聞かれたら、何て説明するのよ」
「女神だと答えます」
当然のように返事が返ってくる。私は、「それじゃあ、皆は納得しないわ」と唸る。
「だってラフィエルさん、もし犬を散歩中の人に、「この犬はあなたとどういう関係ですか?」って聞いて、相手が「犬です」って答えたら、不自然に思うでしょう? ラフィエルさんの回答って、その手の返事と同じなのよ。こういうときは普通、「ペットです」とかって返すはずよ」
「女神はペットではありません」
「例えよ、例え」
私は首を振る。
「何か関係性に名前がついていなかったら、皆色々と勝手な想像をするわよ。それで、真っ先に『愛人』だと思うわ」
言いながら、私も疑問に思ってしまう。
私たちの関係には、名前がついていない。
私って、ラフィエルさんの一体何なんだろう?
それに、私にとってもラフィエルさんは、どういう存在なんだろう?
「女神は女神ですが」
ラフィエルさんはそう言ったけど、はっきりと断言する口調ではなかった。
「必要なんですか、他の名前が」
「……そうね、必要かも」
頭の中に疑問符が駆け巡っていた私も頷いた。
「私、ラフィエルさんの何なの?」
沈黙が降ってくる。また寝てしまったのかしら、と思ってしまうくらい長い時間が経った後、ラフィエルさんが呟いた。
「分かりません」
あんなに頑なだったラフィエルさんは、私からあっさりと離れていった。
「答えが出るまで、君の寝室には近づかないようにします」
ラフィエルさんはそれだけ言うと、隠し通路を通って出て行ってしまった。
その背中を見ながら、何故か落胆している自分に気が付いて、私は狼狽えてしまう。
私、もしかして言って欲しい言葉があったのかしら?




