魔物との遭遇
歩く、歩く、そして走る。
木がミシミシと……いやバキバキ言ってる、言ってる!
只今、魔物に遭遇して追われてますぅぅぅ!!
「どうしてこうなったんだよぉぉぉぉ!」
「知らぬ! 我のせいではないからな!」
追いかけてくるそれはふわふわの毛で楽しそうな顔をし、
時々ヨダレを垂らしては稀に吠えながら追いかけてくる。
まるで成長が止まらなかった犬のようだ。いやしかし、パッと見5mはあるぞこいつ!
「絶対お前のせいだろうが!!!」
「わ、我は何もしてないぞ! 嘘を吐くな!」
「はぁ? 試し打ちとか言って寝てる魔物に矢を当てたのは何処のどいつだよ!?」
「そ、それは」
ゼェゼェと息を切らしながらも逃げる2人。
しかし、冷や汗まじりの汗はどこか爽やかに感じる。
いわゆるこれが火事場の馬鹿力ってやつだろうか。
走る度足元で擦れる草が少しこそばゆいが、今はそんなこと気にしてる余裕なんてない。
「はぁっ……はぁっ……ふんっ、くっ!」
覚悟を決めて、軽くジャンプをしたと思うと進行方向とは真逆の方向に腹をよじらせる。
俺は身体を180度ぐるんと回転させ、今にも迫り来る犬の魔物に対峙していた。
「お、おいっ! 何をしている!?」
「……るせぇ! いつまでも追われてる訳にはいかねぇんだよ! 俺が倒す!」
未だ自分がどれほど強いのか、今までそれを試す相手がいなかった。
────なら!
「最初の餌食になってもらおうかなぁ!」
かつてないほどの高揚感と勇気に満ち溢れていた。
重だるい身体を無理くりして作った笑顔は、この世界に存在する悪魔よりも恐ろしい。
「っ! 倒すって言ったってどうやって!」
「俺に任せろ」
召に見られたくはなかったが、命に変える訳には行かない。
そう決心して、自身の持つ技を解放した。
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スキル『星輝ノ剣技』を解放します。
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感情の欠片も無い機械的な声と共にこれまで封じていたものを具現化した。
するとどうだろう。
先程までの疲れとは裏腹にみるみると力が溢れ出てくる。
真正面まで来た犬っころは、自分の方が強いという慢心からなのか、
俺の前で急ブレーキを掛けハッハッという少し荒い息遣いと共に立ちはだかった。
「もう追いかけっこは終わりにしようか」
その言葉を発した瞬間、
気配が変わったと察したのか犬っころはグルルと唸り始めた。
だが、もう遅い。
「終いだぜ、犬っころ。生きていたらまた追いかけっこだな。
──スターライトノヴァ」
全身の神経が研ぎ澄まされる。
木や草が揺れ動く音もその間を飛ぶ1匹の虫の羽音さえも聞き逃さなかった。
犬っころは唸りをやめ、大きな声と共に一気に襲いかかって来た。
無駄な事を、今の俺には全てが遅く見える。
「なんだよ、お前。まじまじと見ると意外と怖い顔してたんだな」
ゆっくりと流れ落ちるヨダレ。
一体何を食べてきたのかと思うほど、酷い悪臭がする。
「おっ、そろそろか」
一時的に遅くなっていた時間の流れが元のスピードに戻る前に
奴の身体中に切り込みを入れ、確実に殺す為、最後に喉を掻っ切る。
時間の流れが元に戻った。
すると犬は一瞬にして全身から多量の血を吹き出し、
最後の余力で吠えたかと思うとバタンと倒れて動かなくなった。
「……え? 何が起きたのだ?
さっきまで生きてた犬が死んでいるではないか」
「あ、召。終わった」
「終わったぞ、ってえぇ!? これお前がやったのか!?」
「倒すって言ったじゃん」
「……にしてもなぁ」
召は何が起こったか分からないと振る舞う様に、疑問の表情を浮かべた。
嘘だ。こいつは今嘘をついている。
技を使っている時、不思議にも召は瞬きをしたのだ。
技を使った事によって俺は周りより数倍早い速度で動いているはずだ。
なのに普通に瞬きができるなんて事はありえない──
つまり遅くなっている演技をしていたのだ。
だが、猿芝居で固まってられても困るので喝を入れた。
「はい、いつまでもぼーっとしてないで! 素材回収するぞ〜!」
俺はまたひとつ親友を信じられなくなってしまった。
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