過去と未来
晴れた空と新緑がよく目にしみる丘。
漂う雲を毎日見ていると、そのうち寒くなるような感じがして身震いをする。
流れ出る汗の匂いは、まるで毎日の修行の厳しさを物語るよう。
今日も俺は、世界樹の師匠と共に修行の日々を過ごしていた。
「はい終了! 今日はここまでじゃ!」
「うへぇぇ! 疲れたぁ!」
日本で言えばあれから1ヶ月ぐらいだろうか。
"あれから"とは俺がこの世界に召喚されて初めて技を習得した時からのことだ。
みんなはなぜ俺が"だろうか"なんて定まらない言い方をしたか疑問に思うだろう。
というのも、来る日も来る日も寝ても覚めても
全くもって景色も、気候も何一つ変わらないからだ。
こちらの世界に来たのは7月の終わり頃。
日本の季節変化と一緒なら既に寒くなっていてもおかしくないはず。
やはり、時間の流れが違うのか……それとも────
柄にもなく考えるのは少々疲れる。
日々の修行のせいもあってかため息が出た。
「はぁ」
「なんじゃ、ため息か。らしくないのう」
「あ、いや。ちょっと考え事しててな」
「ほう? おぬしのちっぽけな脳で考える悩みなんぞ軽いものじゃろ。
どれ、ちと休憩がてら聞いてやろうかの」
俺は師匠に、こちらに召喚されたことやこの世界の事について話してみた。
「ほう、なるほどの。今まで黙っとったが……もう話しても良い時期かの」
「何を黙ってたんだよ、師匠と俺の仲じゃん」
と軽く冗談交えに笑いながら師匠に言った。
がしかし、その言葉を聞くやいなや師匠は急に真剣な目つきで俺の方を向きまっすぐと見た。
俺も釣られて黒目に力を込めた。
「リュウよ。旅に出ると良いじゃろう」
「……旅?」
旅。それは異世界においてまさにテンプレであろう。
俺もやっと旅に出る時が来たか、と思うと秘められた五感が呼び覚まされるように感じる。
喜びに満ち溢れそうになった時、師匠がまた話し始めた。
「この世界には、魔王がおる」
魔王。またもや定番。それを倒せって話かな。
「それをたお」
師匠は強く俺の言葉を遮った。
「この世界の魔王はな、正体不明なのじゃ。
姿かたちも分からなければ、どんな技を使ってくるのかすらも不明じゃ」
「正体不明? ……倒せなくないか。その魔王」
「然り。長年その正体不明の魔王は、この世界を何百年も支配し続けていた。
じゃが、60年前の魔獣カタストロフィで世界は8つに分断され変わってしまったのじゃ」
「魔獣カタストロフィ……?」
「おぬしも聞いたじゃろう。この世界が8つの大陸で構成されていることを」
俺はこくりと頷いた。ギルド長からも軽く聞いた覚えがある。
この世界はギース大陸、マーキュル大陸、ヴィーテ大陸、スーレマ大陸、
ジューピーゼ大陸、サノーク大陸、ウヌラノ大陸、ネチュード大陸に分かれている。
「なぜカタストロフィが起こったか。
その答えは一つ、魔王が忽然と姿を消したからじゃ」
「姿を……消した?」
「そう考えられていると言う方が妥当じゃろうか。
長年魔族の君主として玉座に座り、魔獣・魔族などを制御してきた。
じゃが、60年前に起こった事件によって魔王は居なくなったと考える方が自然じゃろう」
姿を消した正体不明の魔王……奴は、魔族の王だったんだよな?
なら尚更、60年も魔王不在のこの世界が安全とはとても言い難い。
「で? 結局何を話したいんだよ?」
師匠は遠くの方をみやり一言呟いた。
「……奴が……魔王が戻ってきた」
「戻ってきた、って……マジかよ」
「故に、おぬしに魔王討伐の依頼を受けて欲しいのじゃよ」
魔王討伐……
「わしは長年、魔王を倒すために職業の研究を進めていた。
じゃが、この世界の88の職業は、どれも決定打とならないものばかりじゃった。
しかしの、おぬしのその変幻万象にわしは微かな希望を感じたのじゃ」
変幻万象……この職業は知り得たもの全てを自分のものにすることが出来ると分かった。
つまり、全てを持ってすれば倒せる可能性があると言うわけか。
「今のおぬしは強い。じゃから、旅に出てこい!
全職業を物にして魔王を討伐してきておくれ。よいな、我が弟子よ」
「おう」という返事とともに俺は師匠から託された魔王討伐の為、
仲間と共に旅に出発する手はずを整えることにした。
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